HR INFORMATION
ストレスの問題とエンゲージメントの関係 ——マイナスをゼロに、ゼロをプラスにするアプローチ
シリーズ|エンゲージメントとジョブ・クラフティング
近年、人事領域で注目を集める「ワーク・エンゲージメント」。仕事に熱中し、やりがい(働きがい)を感じながら、働くことにのめり込んでいる状態を指す言葉です。「どうすれば社員のエンゲージメントを高められるか?」は人事にとって非常に関心の高いトピックですが、福利厚生や社内イベントといったアプローチだけでなく、個人の特性――その人が持つ“仕事を手づくりする力”=ジョブ・クラフティングがカギであることがわかってきました。さらに、このジョブ・クラフティングはエンゲージメントだけではなく、ストレスマネジメントにも効果があるといいます。
今回は、ストレスの問題とエンゲージメントの関係性に着目し、ジョブ・クラフティングの有用性について解説します。
ストレスの対策に有効な「コーピング」
ストレスの問題とエンゲージメントの関係性を説明する前に、まずはストレスについてみていきましょう。企業のストレスマネジメントの目標は、社員が心身ともに健康で、なおかつ仕事に対して意欲的に取り組んでくれる状態にすることです。近年社会問題として取り上げられ、コロナ禍の影響で加速しているとも言われるストレスの問題への対策はさまざま講じられてきましたが、その中で本質的に効果があるものとして「コーピング」=ストレスの原因に対する対処方略の考え方が主流になっています。
ストレスマネジメントとコーピングの関係は図の通りです。
ストレスの元であるストレッサーが発生したとき、積極的コーピングを行いコーピングに成功すると、ストレス反応はほとんど現れません。一方で、問題を放置する、我慢するなどの消極的コーピングを行いコーピングに失敗すると、ストレス反応が現れ、心身の不調につながってしまいます。
以前のストレス対策といえば休息やスポーツ、旅行などによる「ストレス解消」「気分転換」といったものがほとんどでした。しかしこれらはその場しのぎの対策に過ぎず、ストレスの原因そのものを解決できるわけではないため、後にストレス反応につながってしまうケースも多くありました。対して(積極的)コーピングは、例えば積極的に問題解決に取り組む、周囲に助けを求める、自らが置かれている事態の捉え方を変換するなど、ストレスの原因そのものにアプローチするものであり、その有用性が広く認識されています。
「ジョブ・クラフティング」は心身の健康をゼロからプラスへ
新しい仕事や課題に直面したとき、それを負担と感じるか、あるいは自分にとってチャンスだと捉えるかによって、その後の行動に違いが生じます。上記で説明した従来のストレスマネジメントでは、ストレスの原因であるストレッサーに対してコーピングを行い、ストレス状態を改善することが主でした。しかし、「ストレスの原因は解決したが、仕事へのやる気は出ない」ケースなど、ネガティブな状態を改善してマイナスからゼロにすることと、ゼロの状態からポジティブで前向きなプラスの状態になることは、別軸で捉える必要がある、という見方が出てきました(下図:心理学的ストレスモデル)。適切にストレスマネジメントを行い、組織を活性化するためには、従来の手法に加え、エンゲージメントを向上させる必要があります。
ジョブ・クラフティングは、「(働いている人自身が)仕事を自ら創意工夫し、変化させること」を指す、エンゲージメントを高める行動特性です。資料を取り出しやすいように整理の方法を工夫する、同僚に仕事内容をきちんと伝えるための言い方を考える、苦手な仕事を任されたときに自分の強みを活かすやり方を考える、など、自分で積極的に考え、何らかの工夫を加えてみることで仕事に対するエンゲージメントは高まるとされています。
コーピングとジョブ・クラフティングがいずれも成功すれば、ストレスの状態は改善し、さらに仕事への興味関心、活力を高め、心身ともに健康な状態で働くことができます。実際の仕事においては、コーピングとジョブ・クラフティングの双方が同時に発揮されることがほとんどで、ある同じ仕事を前にしたとき、「大変だけれどやりがいがある仕事」と捉えるか「やりがいがあるが大変な仕事」と捉えるかはその時々によって異なります。大切なことは、コーピングとジョブ・クラフティングを、そのときの状況に応じて行うことです。
ストレス状態の改善にも効果を発揮するジョブ・クラフティング
コーピングとジョブ・クラフティングは、どちらも自分自身で自らの行動や意識(認知)を変化させる特性ですが、ひとつ大きな違いがあります。それは、コーピングがエンゲージメントを高めることには必ずしも結び付かないのに対し、ジョブ・クラフティングはエンゲージメントを高めながら、ストレス状態の改善にも効果がある点です。
例えば、英語が苦手な社員が英語によるミーティングをストレッサーだと感じている場合、ミーティングの冒頭で「英語が苦手なので、わからないときには質問します」という宣言をすること(①)、そしてこのフレーズを話す練習から英語の学習をはじめる(②)といったことが考えられます。①がコーピング、②がジョブ・クラフティングにあたりますが、①だけではストレス反応を減らすことにしかつながりません。②のジョブ・クラフティングも併用することで、ストレス反応の軽減と同時に英語学習に対するエンゲージメント向上も期待できます。このように、ストレス問題とエンゲージメントは密接に関わっており、その両者を結びつけるカギが「ジョブ・クラフティング」であることがわかります。
まとめ
ストレスの問題を解決しようとするとき、ストレスの原因そのものにアプローチするコーピングもちろん、ジョブ・クラフティングを併用することで、ストレスマネジメントの効果が高まります。これは、企業が社員のストレスマネジメントを考える際、ストレス反応だけではなく、エンゲージメントの観点からも心理的健康状態をみることの必要性を示しているとも言えます。
ストレス問題やエンゲージメントをはじめとする人事施策に有効な視点として、ジョブ・クラフティングの活用をご検討いただければと思います。
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