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Interview

日本型の「新卒一括採用」は、本当に悪なのか?― データでひも解く“欧米型”と“日本型”、本当のはなし(後編)

Published on 2020/03/12

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Profile

海老原 嗣生Tsuguo Ebihara

雇用ジャーナリスト
経済産業研究所コア研究員
人材・経営誌『HRmics』編集長
ニッチモ代表取締役
リクルートキャリア社フェロー(特別研究員)

1964年、東京生まれ、大手メーカーを経て、リクルート人材センター(リクルートエージェント→リクルートキャリアに社名変更)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。その後、リクルートワークス研究所にて『Works』編集長に。2008 年、人事コンサルティング会社「ニッチモ」を立ち上げる。『エンゼルバンク―ドラゴン桜外伝』(「モーニング」連載)の主人公、海老沢康生のモデル。

「日本型新卒一括採用 vs 欧米型通年採用」の議論が再燃しています。そこで主張されていることは、数年前、大卒求人倍率が低く、就職できない学生がクローズアップされていた頃と同様、これからの人材採用を考えるうえで首を傾げてしまうような意見も多い印象です。事実を正確に把握し、理解し、本質を捉えて考える機会として、今回は雇用ジャーナリスト・海老原 嗣生氏に、お話しを伺いました。後編では、現在の日本の就職活動の状況について触れながら、新卒一括採用の是非に迫ります。(前編はこちらから

20年前の自由化で、企業も大学も疲弊した。同じ轍を踏まない、実効性のある議論が必要

いよいよ就職活動についてお話しを伺いたいと思います。冒頭に触れた通り、一昨年秋より、就職時期についての議論が多くなされています。政府が2021年卒の新卒採用までは現行ルールを遵守する方針を発表しましたが、2022年卒以降は依然不透明なままです。この状況について、どうご覧になっていますか。

正直なところ、「またか」という印象です。就職の時期についての議論は、これまで幾度となく繰り返されています(図3)。いま、「いつでも採用できるよう通年化すべきだ。解禁ルールを廃して自由化すべきだ」という主張が出てきていますが、それについては反対です。通年化を考える際、現状より“ 前”へ、あるいは“ 後ろ”への通年化が考えられますが、“ 後ろ”への通年化については、採用活動はそもそも採用人数が決まっているのだから、人数が充足したら止めるのが普通です。つまり、“ 後ろ”への通年化の第一のパターンは「採用できないから、結果的に通年採用になる」というもの。ただこうした場合、他社を落ちた学生が大量にやってくるのが現実で、実際、外資大手などはすぐに” 後ろへ”の通年化を取りやめています。となると“ 前”へ通年化するしかなく、自由化・早期化は超早期化に帰結しがちです。いまから20 年前、1997年(採用協定の廃止)~2002 年(倫理憲章の改定)の6年間、採用協定廃止により新卒採用は自由化されています。このときに何が起きたかというと、目に余るほどの早期化です。超大手人気企業が大学2年生を対象に、採用目的のインターンシップを始め、他社も追随して採用直結型インターンを始め、結果として大学は学業崩壊状態となりました。企業も、内定拘束を2 年もできず、他社流出が起き、入社者の歩留まり悪化に悩みました。また、内定~入社までの2年間で、採用した企業では、業績の変化による人員計画の変更、さらにはリストラなども起こり、内定者の扱いと労働組合との兼ね合いで頭を悩ませました。結局、超早期化競争は、企業にも大学にも痛手となり、結果として2002年、倫理憲章が強化され、「採用選考活動早期開始の自粛」として「まして特に卒業学年に達しない学生に対して実質的な選考活動を行うことは厳に慎む」と明記された…という経緯があるのです。その後、2010 年、日本学術会議による就活全体の後ろ倒しを示唆する報告書に端を発して、時期論が再燃して、頻繁にスケジュールが変わって現在に至っているわけですが(図4)、就活後ろ倒しに関しては、実は経団連は最後まで反対していたのです。だから、就活ルールに関する議論で、経団連が矢面に立たされてしまうのはあまりにも不合理で、「もう勘弁、ルール遵守のために傘下企業をまとめる役をおります」となったのは、気持ちとしてはわかります。

 

完全な自由化は企業にとっても学生にとってもデメリットが大きいのですね。ヒューマネージとしては、新卒採用は、今後、「一括採用」と「通年採用」 のハイブリット型になっていくと考えています。ボリュームゾーンは「一括採用」のメリットをいかし て採用し、採用しづらい職種や留学生などは「通年採用」で採用する。ここ数年のスケジュール変更は、就職活動は短ければ短いほどよいといった方向に進んでいましたが、ボリュームゾーンについてももう少し余裕のあるスケジュールのほうが、最初はなんとなく大手企業を受けた学生が、落ちて、深く考えて、知らない企業に目を向ける…といった就活を通じた気づきの期間を多くとれますし、企業・ 学生双方にメリットがあると思います。

雇用システムは、社会を支える基盤。日本型のメリットを正しく理解し、活かしていく

日本の就職活動をめぐる議論の際、もうひとつよく言われるのが「就活ルールがあるから、学生が留学しない」というものです。これについては如何ですか。

日本の就活慣行が大学生の留学減少の原因であるという批判がよく聞かれますが、大きな誤解です。留学生の推移をみると(図5)、まず、2002年、就活ルールが4月1日解禁になっても留学生は増え続け、2004 年にピークになっています。その後も2007年まで高止まりし、2008 年以降急減していますが、これはリーマンショックによる不況が原因と考えられます。また、留学に適した年齢の人口が2004 年をピークに減少し始めたことも一因と考えられます。そもそも、留学生の8 割は6ヶ月未満の短期滞在なので、就活時期を外すことは容易です。

 

「日本も新卒一括採用なんてやめにして、すべて欧米型の通年採用にすべきだ」という主張についてはどう思われますか。

最初に申しあげた通り、欧米はジョブ型雇用であり、中途採用が主です。新卒はポスト相応の仕事ができないため、なかなか採用されにくい。新卒で採用されるのは、エントリーレベルのポストが空いたときとなります。だから、いわゆる普通の学生は、ジョブ型求人で採用されるために、修業期間としてのインターンシップや職業訓練が必須となります。この期間がギャップイヤーなのです。よく「大学卒業後、好きなことをして、期間を置いてから就職すること」をギャップイヤーと認識している方がいますが、全く違います。本来のギャップイヤーは、就職するための修業期間です。インターンシップの現状もかなり厳しいものです(図6、図7)。フランスでは、8 割近い学生が2回以上のインターンシップをおこない、その期間は平均14ヶ月。インターンシップ期間中の賃金は、半分が無報酬であり、報酬への所感は「搾取」が最も多くなっています。また、インターンシップに関する記述はとても過酷です。

 

 

フランスには、一方で、グランゼコールと呼ばれるエリート養成機関があり、一部の超上位層について選抜教育がおこなわれ、優秀者を高給で長期トレーニングしながら採用する仕組みがあります。アメリカでも、トップ層は、リーダーシッププログラム採用(LDP。2年程度、複数の育成プロジェクトに従事したあと本採用となる)で採用されますが、その数はFortune 500に入る企業でも10 名ほど、さらに正式採用される率は50%程度と言われます。つまり、ほんの一握りのエリートとノンエリートに分かれたキャリアとなり、その分断は社会的な階層としてずっと続きます。ノンエリートの場合、年収はほとんどあがりません(図8)。

 

採用の話とは少し離れますが、「欧米型は素晴らしい。年収も高いし、ワークライフバランスもとれている」というイメージを抱いている人は、ここをごっちゃにしてしまっているんです。エリートは、仕事最優先でバリバリ働き、家事育児はアウトソーシングしている。一方、ノンエリートは出世を諦めて平社員として働き、その代わりワークライフバランスを手に入れる。夫妻ふたりで働いて、ワークライフバランスも、世帯年収も維持している。イメージだけで議論が進み、日本型のメリットに正しく目を向けないまま、雇用システムを改悪してしまうのは非常に危険です。

最近は「日本の新卒一括採用の仕組みが、若年労 働者の失業率を低く抑えている」という点については、新聞などで言及されることも多く、以前より知られるようになったと感じています。

そうですね、数年かけて、あちらこちらで声を大にして言ってきた甲斐がありました(笑)。若年失業率をみると(図9)、新卒一括採用の仕組みがある日本では失業率が低く抑えられており、メリットは明らかです。育成という観点でも、エリート、ノンエリートが入口からはっきり分かれている欧米型に比べ、先ほどお話しした通り、日本では誰でも緩やかに階段を上って成長していける仕組みがある。新卒一括採用は、キャリアの入口としてはうまく機能しているといえるのではないでしょうか。

日本型雇用と欧米型雇用の違い、日本における解雇規制など、それぞれのトピックについて理解できたことはもちろんですが、事実を誤解したままの日本型雇用への批判、欧米型雇用への礼讃の怖さを痛感しました。採用支援の会社として、本質を決して見誤ってはならないと強く感じた次第です。本日は誠にありがとうございました。


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