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Interview

「一括採用 vs 通年採用」論を超えて ― 大学から見た“新卒採用”のかたち

Published on 2019/09/11

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Profile

牛尾 奈緒美naomi ushio

明治大学 副学長
明治大学 情報コミュニケーション学部 教授、明治大学出版会会長

慶應義塾大学卒業後、1983 年、フジテレビジョン入社。アナウンサーとしてニュースや情報番組のキャスターを務める。結婚退社後、専業主婦となるが、一念発起し、慶應義塾大学大学院に進学。MBA 取得、出産を経て大学院博士課程を修了し、1998 年、公募で明治大学専任講師に採用される。2003 年助教授、2009 年より現職。専門は経営学、人的資源管理論で、働く女性の能力発揮の問題に取り組む。公職として、文科省「中央教育審議会」委員を務めるほか、静岡銀行監査役、ポーラ・オルビスホールディングス取締役など一部上場企業数社のアドバイザー、テレビのニュース番組のコメンテーター、新聞、雑誌、講演等、多方面で活動。一児の母。

学生の主体的な学びを支える 明治大学の取り組み

―2018 年12月、経団連が「今後の採用と大学教育に関する提案」を公表したように、「採用」と「大学教育」のあり方はセットで語られることが多くあります。この提案では、“文系・理系の枠を越えた基礎的リテラシー教育 ”や “アクティブラーニング ”、“初年次におけるキャリア教育 ”といったキーワードが並んでいるのですが、貴学ではどのような取り組みをおこなっているのでしょうか。

明治大学では、学生の主体的な学びを向上させるために、さまざまな取り組みをおこなっています。一例が「100 分授業」です。従来の講義は90 分間でしたが、2016年より100 分間に延長し、そのなかで教員が一方的に講義するだけでなく、学生自らが授業の主体となるアクティブラーニングを多数導入しています。細かい進め方は教員により異なりますが、たとえば私の講義では、私が話す量は従来の半分にして、「これについて、あなたはどう思う?」と投げかけ、意見を述べさせてディスカッションをしたり、リアクションペーパーを配布して、その日の講義についてさらに調べたいことを各々で調べさせて、次回の講義で発表させたりしています。最初は学生たちも戸惑っていますが、慣れてくると「私は○○について調べてきました!」と自発的に発表をはじめたり、それほど積極的ではない学生も、いつ私にあてられるかわからないので、考えながら講義を聴くようになるわけです。アクティブラーニングを導入した結果、授業を楽しそうに自発的に学ぶ学生が確実に増えました。こうした講義で鍛えられる、自ら進んで学ぶ「自主性」と「積極性」は、社会に出ても必要な力です。そういった実践的な授業やプログラムを多く実施しているのは、明治大学の特長のひとつです。

―インターンシップについてはいかがでしょう。

インターンシップは単位として認められており、インターンシップに関する授業もあります。対象となるインターンシップは、自分で見つけたものでも大学が用意したものでもどちらでも構わないのですが、期間としては、夏休み等を利用した数週間程度のものが中心となります。実施前には準備講義をおこない、終了後は受入企業より、よかった点・課題と思われる点などのフィードバックをいただき、それをもとに教員が学習効果を判定します。私は昨年、インターンシップの担当教員を務めたのですが、参加した学生によるインターンシップの成果発表をきくと、やはり実際の仕事を通じてこそ得られる学びが多く、よい成長機会になっていると実感しました。

―明治大学は「就職の明治」とも言われていて、 就職支援にもとても力を入れていらっしゃると聞きます。

明治大学のキャリア支援は非常に充実しており、他の大学の方が見学に来てくださるほどです。なかでもキャリアセンターの職員の方々は、本当に優秀だと思います。多くの知見やノウハウ、企業とのリレーションをもとに、就職を希望する学生は卒業までに100%就職させるべく、厚くサポートしています。ですから、私も「どうしても困ったときにはとにかくキャリアセンターに行って相談しなさい」と伝えています。そういった体制があることは、学生にとっては本当に安心ですし、教員としても心強いです。

大学時代は、4 年間の学びを通じて将来の方向性を見出していくもの

―2019年4月、採用と大学教育の未来に関する産学協議会による「中間とりまとめと共同提言」に関する報道を契機に、新卒採用において“通年採用”というキーワードが注目を集めています。こうした動きについて、どのように感じていらっしゃいますか。

「一括採用から通年採用へ」といった表現を目にしますが、新卒一括採用にもメリットはあると思います。たとえば、若年層の失業率の低さや、新卒の未経験者が働きながら仕事を学ぶ機会が得られるのは、新卒一括採用の恩恵であり、日本の良さのひとつです。確かに、人手不足により人材獲得競争が激化し、採用活動の早期化が加速している現状を考えれば、通年採用が拡がっていくことも理解はできますし、人材のダイバーシティを目指す企業にとっては当然の流れであると思います。とはいえ、現時点での日本の若年労働力の有効活用というマクロ的視点から考えると、新卒一括採用は一定の評価ができる仕組みだと思います。やみくもに早期化が進むことで学生の学びに支障が出てくるのではないかという懸念もあります。教員の立場で申しあげますと、各企業が自由に採用活動を進めるのは理解できますが、「ある程度の目安は欲しい」というのが本音です。たとえば、インターンシップがどんどん無秩序に前倒しされ、多くの学生が大学1年生の頃から参加する、となってしまうと、授業が成立しなくなります。また、多くの学生は、大学4 年間の学びを通じて将来の方向性を見出していくものです。それを1年生や2年生の段階で企業が囲い込んでしまったら、どうなるでしょうか。企業が欲しがるような、いわゆる潜在能力の高い学生であっても、1年生や2年生の段階では、将来何をしたいのか確立していない子が大勢います。これから4 年間をかけて進むべき道を見つけていこうとしているのに、あるいは日々の学びを通じて選択肢がさまざまな方向へ変わる可能性があるのに、早い段階で視野を狭めてしまうのは、学生の人生にとって決して良いことだとは思えません。

―通年採用のポジティブな面を挙げるならば、何だと思われますか。

通年採用というと、早期化について考えがちですが、たとえば4 年生の後半でも、あるいは卒業後でも採用されるということだと思いますので、それはポジティブに捉えることができます。大学1年生の頃から就職のことばかりに気を取られてしまうと学業に影響を及ぼしかねませんが、時期を問わない通年採用であれば「いつでも大丈夫」という安心感につながります。学生生活を通じていろいろと経験し、視野をひろげ、自分自身をきちんとつくりあげてから就職活動に臨める。大学時代に、何かにエネルギーを注ぎ、深く学んだ学生というのはとても魅力的ですので、時期を問わず「採用したい」学生だと思います。

ミスマッチを防ぐためにも 一人ひとりの“らしさ”がわかる採用活動を

―日々、学生のみなさんと接していらっしゃるなかで、「就職すること」や「働くこと」への意識の変化を感じることはありますか。

あいかわらず大手企業は人気がありますが、とはいえ「大手企業だったらどこでもいい」という学生は少なくなってきています。たとえ有名企業でなくても、自分の能力を試せるか、若いうちから出番があって成長できそうか、そういった視点で企業を選ぶ学生が増えてきている印象です。みな、自身の将来や自分のやりたいことを冷静に考えています。志望企業には落ちてしまったけれども、そこからもう一度内省して、軸を定めて企業を探し始める学生もいて、そういった姿を見ると、何とも頼もしいなと感じます。

―学生のみなさんの「転職」に対する意識はいかがでしょうか。また、将来の不安や迷いに対しては、どのようなアドバイスをなさっていますか。

辞める前提で就職することはないと思いますが、とはいえ、先輩たちをみていると2~3 年で転職している人も少なくありませんので、「自分もそうなるかもしれない」と、頭の片隅で考えている学生も多いはずです。求人倍率を見るまでもなく、いまは“ 超”売り手市場ですから、辞めても次がすぐ見つかる。この流れは止められないと感じています。私も以前は学生たちに対して「少なくとも3 年は頑張らないと、次はないよ」と指導してきましたが、石の上にも3 年、とは言いづらくなってきました。最近の学生たちを見ていると、みな何かしら不安や迷いを感じているようです。変化のスピードが速く、先行きが不透明な時代のなかでは仕方がないと思いますが、不安感を煽られるような情報も多いですよね。なかには「A社は1年目で年収1,000万円」という華々しいニュースを見て、自身の内定先の初任給と比べてしまい、就職をためらう学生もいます。こちらからすれば、それは本当に一部分だけを切り取った一面的なニュースであって、多様な軸で検討し判断すべきもの、とわかるのですが、私のゼミの学生たち、そして卒業生たちもよく悩んでいます。そういう学生には、私は「時代が変わっても、自分の得意なものややりたいことを極めていけば、必ず道は拓ける。だから、自分が本当に幸せだと感じること、生きがいだと思えること、価値があると感じることを一生懸命やりなさい」と伝えています。お金はもちろん大切ですが、仕事に見合った、きちんと生活できるくらいの報酬があればそれでいい。そういうことよりも、自分にとって本当に大切なものを見極めていきましょう、と言っています。

―最後に、企業の採用担当の方々へメッセージをお願いします。

最近の学生は、大学の入学式でもほぼ全員が黒のリクルートスーツに身を包んでいて、そういう一律一緒の光景を目にすると、とても寂しく感じます。ましてや通年採用が拡がり、早期化が進んで、1年生からリクルートスーツを着るとなってしまったら、とても違和感があります。私が毎日学生たちと接していて感じるのは、一人ひとり個性があり多様であるということです。ですから、採用担当者の方々にはぜひ“その人らしさ”が伝わる採用活動をしていただけたらと思います。もちろん、服装はひとつの例に過ぎませんが、「自分を表す恰好でお越しください」という企業側からの働きかけが“その人らしさ” が出てくるきっかけとなり、ミスマッチを減らすことにつながるかもしれません。学生も企業も幸せな就職/ 採用活動であるために、“その人らしさ” がわかる働きかけを、ぜひご検討いただければ幸いです。


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