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Interview

「少子高齢化による人手不足」は本当か?
海老原嗣生が紐解く、採用市場の真の可能性

Published on 2022/09/09

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Profile

海老原 嗣生Tsuguo Ebihara

株式会社サッチモ代表取締役
政府労働政策審議会人材開発分科会委員、
中央大学大学院戦略経営研究科客員教授、大正大学表現学部特命教授

大手メーカーを経てリクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画推進、人事制度設計等に携わる。 その後リクルートワークス研究所『Works』編集長。2008年HRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。「エンゼルバンク」(モーニング連載)の主人公海老沢康生のモデルでもある。『人事の成り立ち』(白桃書房)、『人事の企み~したたかに経営を動かすための作戦集~』(日経BP)など、著書多数。

著書のご紹介

「少子化で新卒採用の難易度が上がった」「中小企業に集まる人材は質が低い」……。社会の在り方や働き方の変化によって勢いを増す「人」にかかわるさまざまな言説に、雇用ジャーナリストの海老原氏が鮮やかに切り込んだ一冊。本インタビューでも取り上げる採用市場のデータやロジックを紐解きながら、採用の現場で役立つ実践的な戦術と作戦を解説する。

少子化が進む現代においては慢性的な人手不足が続き、中小企業や知名度の低い企業は新卒採用において圧倒的に不利である。――そんな悲観的な言説が「常識」となりつつある採用市場ですが、「実は少子化が進んでも、大卒人材の人手不足は起こっていません」と反論するのは、雇用ジャーナリスト・海老原嗣生氏。30年前と比べて若者の数が半減した今も、女性の進学率向上に伴い大卒者の数は増加傾向にあるといいます。「景気が後退すれば、中小企業にも必ず採用のチャンスは訪れる」と断言する海老原氏の論拠とは何か。複数のデータを紐解くことで、これからの採用市場が秘めた可能性が明らかになりました。

少子高齢化でも、実は大卒人材は増え続けている

近年、少子化に伴い若者の数が減り、採用競争がますます激しくなっていると言われます。一部の大企業・有名企業を除く中小企業にとってはとりわけ厳しい状況が続くという声が聞かれますが、どのように思われますか。

それは、実は誤った「常識」だと思います。私が中小企業経営者からよく聞く悩みに、次のようなものがあります。「一般に不況になれば大企業の採用数が減って採用倍率が下がるから、我々中小企業も採用がしやすくなると言われてきた。しかしそれも昔の話で、今は少子高齢化で若い人の数が絶対的に足りないから、採用倍率も以前ほどは下がらないだろう。つまり中小企業にとっては、良い人材を採用するチャンスはもう来ないように思われる」。どうでしょう、この意見は正しいと思いますか?

マスコミなどの報道を見ていると、そのような考え方が主流になっているように思われますが……。

私の考えでは、正解は「採用分野によって異なる」というものだと思います。つまり、高卒者や非ホワイトカラーの採用についていえば、その考え方は残念ながらある程度正しい。高卒人材は確かに減少し続けているからです。しかし、大卒のホワイトカラー採用についていえば、少子高齢化の影響はあまり考えなくてもよいでしょう。好況時の採用が大企業優位であるのは事実ですが、不況になれば中小企業にも必ずチャンスが訪れますし、適切な採用活動を展開しさえすれば、大企業に引けをとらない優れた人材を採用することも可能です。なぜそういえるのか、今日はデータに基づいた正しい社会構造の見方についてお話ししたいと思います。

少子化がホワイトカラーの採用市場に影響を及ぼさない、というのはなぜでしょうか?

次のデータを見てください。

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青い線は高卒者の数で、過去30年間で5分の1まで減っています。ここまで減っているということは、高卒者の採用が長期的に厳しいものとなるのは、残念ながら明らかです。一方で、赤い線で示されている大卒者の数はゆっくり増加し続けており、30年前と比べて1.6倍、人数にして20万人も増えている。つまり、大卒者が主流となるホワイトカラーの採用に関しては、少子高齢化は関係ないといえます。不況になれば、中小企業にも必ずチャンスが巡ってきます。

実際に近年の不況時にも、中小企業の採用は有利になっていたのですか?

その通りです。次のデータを見てください。

2

これは大学新卒採用の求人倍率を示したグラフで、下の線は大企業の求人倍率、上の線が中小企業の求人倍率を表しています。ご覧の通り、採用に有利な大企業の求人倍率は景況に関わらず一貫して1倍を切っていますが、中小企業の求人倍率は大きく変動しています。直近でいうと、リーマンショック、東日本大震災、超円高不況などが重なった2011年から2014年にかけては著しく求人倍率が低下し、採用がしやすくなったことがわかります。「でも、それは今から10年以上も前の話だ。少子高齢化はその後も加速しているのだから、今はもっと厳しい状況になっているのではないか?」と思われるかもしれませんが、実は少子高齢化の構造は2011年当時の方がシビアでした。ベビーブーマーといわれる当時65歳前後の人が年間200万人も退職する一方、大学新卒者の数は120万人程度と現在と変わらない人数だったからです。それにもかかわらず、中小企業の求人倍率は1.79倍まで下がった。つまり、今後再び不況が来れば、必ず中小企業にとって採用がしやすい状況になります。2022年6月現在、就職倍率は低下傾向にありますが、おそらく今年から来年にかけて景気が悪くなってくるでしょう。中小企業にとっては、絶好の採用チャンスになるということを、覚えておいてほしいです。

大卒人材の「質」が低下している、という誤解

中小企業にも大卒者の採用が可能である、ということはよくわかりました。しかし、若者の人口が半分に減っているのに大学生の数が1.6倍にも増えているということは、大学生のレベルが低下しているとは考えられないでしょうか。

それも多くの経営者が口にされる不安のひとつですね。しかし、結論から言えば問題ありません。特に中堅・上位大学の学力はほとんど下がっていないと考えてよいでしょう。「人口が減って大学生が増えたのに、なぜそう言えるのか?」と不思議に思われるかもしれませんが、次のデータをご覧ください。

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これを見ればわかるように、昭和50年ごろにはすでに男性の大学進学率は40%を超えており、現在と大きくは変わりません。しかし女性の4年制大学進学率を見ると、昭和50年当時はわずか12%程度で、今は45%以上にまで急増している。40年ほど前の日本は男女格差が今よりも大きかったため、女性の進学先は主に短大、4年制大学でも女子大の家政学部が一般的でした。つまり産業界に主力として参画するのはほぼ男性という時代です。かつては人口の半分を占める女性が人材として埋もれていたのに対し、今では彼女たちも企業で男性と同等に活躍できるようになった。つまり、若者の人口は半分になったものの、大卒者を男女ともに活用するならば、人数も優秀さも以前と比べて遜色はないはずなのです。

確かに、データを見る限りその通りですね。しかし、それではなぜ多くの企業がホワイトカラーの人手不足を感じているのでしょうか。

いくつか理由は考えられますが、「男性型企業」を脱していない企業が多いことは大きな要因の一つだと思います。せっかく大卒の優秀な女性が増えているのに、性別にこだわって男性を優先して採用していては、人手不足や人材の質の低下に悩まされるのは当然です。男女共同参画型の企業ほど採用が有利になるということは、ぜひ多くの方に覚えておいていただきたいですね。

学歴+適性検査を組み合わせることで、採用の効率と公平性を両立

大卒人材の人数・質ともに過去と比べて低下している事実はないということが、データを通してよくわかりました。ところで人材の「質」を見極める難しさも、企業にとっては大きな課題のひとつです。「できるだけ多くの人と面接をしてマッチングを図りたいと考えているが、現状は時間とマンパワーの制約上、学歴でフィルタリングをかけて面接人数を絞っている。こういう方法は正しいと言えるのか、悩ましい」という採用担当者の悩みも聞かれますが、この問題についてはどのようにお考えですか?

学歴だけで人材の優秀さは測れないし、例外はいくらでもあります。とはいえ、学歴で「いったん」フィルタリングをかけることは、ある程度仕方ないところがあるかもしれません。1万人以上といった多人数の応募者全員と面接をすることは物理的に不可能ですし、最初に人数を絞る手段として学歴を見ることには一定の意義があると考えられるからです。なぜかといえば、上位の大学に入学するためには、一般的に「論理思考や記憶力の良さ」「継続的に努力できること」「要領の良さ」のいずれかが必要と言えるからであり、この三つの要素は仕事にも役立つものだからです。

しかしこの手法では、学歴に関わらず優秀な人との出会いが失われてしまいます。企業にとっての損失も大きいですし、学生側にとっても不公平な印象がありますが……。

もちろん、その通りです。本当は高い能力があったのに、運に恵まれなくて志望大学に入れなかった人や、家庭の事情などで十分勉強する時間がなかった人がいます。そういう人たちを、学歴だけ見て落としてしまうのは、非常にもったいない。そこで出番となるのが適性検査です。適性検査では、言語分野・非言語分野の能力を検査することができますので、学歴に関わらず能力の高い人は高い得点を出すはずです。そうした方を通過させることで、優秀な人材を見逃すリスクを減らし、採用の公平性を高めることができます。また、社風や仕事内容によっては性格検査を重視するのも良いでしょう。例えばストレス耐性が重視される職場であれば、そうした検査結果を出した人を学歴に関わらず優遇する。いわば「敗者復活」を実践するために、ぜひ適性検査を利用してほしいと思います。

足切りではなく、すくいとるための適性検査、ということですね。

昔は内定直前に適性検査を実施するというケースが多かったですが、最近は選考の初期段階で適性検査を実施する企業が増えています。応募者全員に適性検査を実施すれば、学歴に偏らない公平な選考が実現できるので、ぜひとも多くの企業に取り入れていただきたいですね。

最後に、採用に悩む企業経営者や採用担当者に、メッセージをお願いします。

今日の話で、日本の採用市場にはまだまだ可能性があるということをご理解いただけたのではないかと思います。とはいえ、もともと採用に有利な大手企業・有名企業と比べ、そうでない企業が採用に成功するには、やはり他社と違った戦略が必要です。実は私は、常識の外側から採用の本質を洗い出す「無勝手流採用」という考え方を提唱しているのですが、それについてはまた別の機会にお話ししたいと思います。


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