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Interview

「人の三井」の採用戦略
—— 採用における“挑戦と創造”

Published on 2020/02/12

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Profile

古川 智章Tomoaki Furukawa

三井物産株式会社
人事総務部 人材開発室
室長

1991年早稲田大法卒、三井物産入社。インターネット事業会社の立ち上げなどを経て、複数の子会社の社長として事業経営に携わる。2012年情報産業本部(現ICT事業本部)の事業室長。2015年、Wharton Business School AMP。2016年から人事総務部人材開発室長。

三井物産株式会社は、採用活動において、合宿選考をはじめとする挑戦的な取り組みで注目を集めています。同社は、2019年、ある就職人気企業ランキングで、文系男子、文系女子、理系男子、理系女子のすべてのカテゴリで第1位に輝きましたが(異例のこと!)、これは「日本を代表する総合商社だから」ではなく、「日本を代表する総合商社が、本気で人材採用に取り組み、“人の三井” “挑戦と創造”という自社のDNAを体現していることが応募者に伝わっているから」だと思います。今回は、人材採用・育成の責任者である、人事総務部 人材開発室 室長 古川 智章 様に、“人の三井”“挑戦と創造”の実践の根底にあるもの、そしてそれを実現するチームづくりについて伺いました。

はじめに設定したのは、経営の経験から得た「MVV」

はじめに、古川様のこれまでのキャリアについてお聞かせください。

私は、1991年に法学部を出て、三井物産に入社しました。正直なところ、何をやりたいか明確に定まっていたわけではありません。いろいろ考えるなかで「経営請負人になりたい」「新しい事業を立ち上げたい」と考えるに至り、そういうチャンスが一番多いと感じた総合商社に決めました。総合商社で三井物産を選んだのは「人」につきます。当時、OB訪問をしたときに三井物産の先輩が自分には非常に輝いて見え、「こんな人たちと働きたい」と思い三井物産を選びました。

入社したあとは、プラントプロジェクトを担当するCFO部門に配属され、その後、研修員としてフランスに駐在し、入社9年目頃から、経営者として会社の立ち上げや経営に携わるようになりました。振り返ると会社生活の半分くらいは出向しています。24年目に人事総務部 人事企画室に異動になり、25年目から室長(現職)になりました。

経営者から、人事の領域へ。どう思われましたか。

私は人事のスペシャリストではないので、最初は何をやったらいいのだろうと、戸惑いもありました。ただ、私自身の役割として「三井物産の“採用”と“育成”のリーダーとして結果を出す」ということははっきりしていましたので、まず自分の組織に「MVV」を設定しました。

「MVV」というのは……?

Mission、Vision、Valuesの3つです。私が組織のリーダーをやるときには、まず、自分の組織に「MVV」をきちんと設定してきました。採用・育成チームの「MVV」は、以下と定めました。

 

 

 

このなかですと、Valuesが特に個性的な印象を受けます。

Valuesは、簡単に言いますと「私というLeaderは、どういうことに価値を見出し、どういうことを評価しません」という判断軸の共有だと思って設定しました。これらのValuesは、すべて私自身の経験――事業会社の経営者として、経営判断の基準にしてきたことです。私は3社の会社経営に携わりましたが、それぞれに胃が痛くなるような思い出があります。Eコマースの会社で事業が行き詰ったとき、携帯向けコンテンツ会社で社長としての自分と三井物産からの出向者という二つの立場に葛藤したとき、ベトナムの家電販売会社で在庫の山を抱えたとき。そういうギリギリの状態で、社員の生活を背負い、事業の最終責任者としてとにかくやり抜く経験を経て、「事業のために本当によい選択とは何か?」を考え、判断する習慣がつきました。会社経営では、そういう純粋な判断の積み重ねが大切で、少しでも変な方向にいくとあっという間に経営危機に陥ってしまうのです。採用・育成チームのメンバーにも、私の言うことをただ鵜呑みにするのではなく、「三井物産の将来にとって良いことなのか?」を考えて欲しい。そして疑問があれば、上司にとって心地よくないことであっても、本質を突いてくれる部下になって欲しいと伝えました。

Missionはチームとして果たすべき使命、VisionはMissionを実現するための目標・戦略、Valuesはものごとを進める際の判断基準。この3つがあれば、ときに迷いが生じることがあっても、チームとして進むべき方向を見いだせる。羅針盤のようなものだと感じます。

三井物産とは何か。そこから、求める人材を考える

採用では、よく「求める人材」という言葉が出てきます。 “人の三井” “挑戦と創造”という貴社のDNAは、採用面にも受け継がれているものなのですか?

採用の責任者になって「三井物産とは何か」「どんな人が向いているのか」ということを考えました。会社の生い立ちをひも解くと、旧三井物産(注)初代社長は益田孝という人です。幕府がフランスへ使節団を送る際に彼の父親が団長となり、益田も一緒についていきます。当時は命がけの旅行だったでしょう。そこで、産業革命が終わったフランスと日本との違いに衝撃を受ける。その経験をして、江戸開城のあと、旧三井物産をつくります。当時彼は27歳。いまでいうベンチャー企業で、3年間の契約社長として就任します。創立時の益田の想いは、国のために外商の手から貿易を取り戻したい。また、国を豊かにするのは民間の情熱・努力・感性であるという想いも抱いていました。

(注)法的には旧三井物産と現在の三井物産には継続性はなく、全く別個の企業体である。

 

創立から1990年代頃までは、時間と距離のギャップを埋める仕事がメインだったと思っています。世界中に駐在員がいていろいろな情報を取ってくる。その情報ギャップを武器にメーカーさんなどと仕事をさせていただいてきた。けれども、インターネットの出現とモバイルシフトにより、パラダイムシフトが起こります。手のひらの中で世界が見えて、情報ギャップがなくなるわけです。そうすると従来のままでは存在意義が急激に下がってくる。そこで「事業に投資し、その先でトレーディングをおこなう」という現在の形へトランスフォームして行ったわけです。
そうやって「三井物産とは何か」を突き詰めて考えていくと、求める人材像は変わっているのでは?と感じました。昔はお客さんから好かれるような人間力があれば、仕事になったこともあったかもしれない。けれども事業投資、事業運営をしていくうえでは、自ら課題を設定してソリューションを考えられる人でないと、投資すべき事業もわからないし、その先で事業をやり抜くこともできないのではないかと。従い、自ら課題形成できて、自ら課題解決する力が必要になって来ていると思います。

会社のDNAである“挑戦と創造”。 それを、採用活動で実践した

そういう人材に出会うための取り組みが、合宿選考をはじめとするさまざまな取り組みなのですね。

合宿選考は、新聞などに多く取り上げられましたが、何か変わったことをしようとしたわけではなく「30分の面接×3回で、何がわかるんだろう…?」というシンプルな疑問が出発点です。短期一発勝負という方法が、果たして本当によいのだろうかと。この日本の採用の慣習にも一石を投じ、変えて行きたいと思いました。

「当社に欲しい人材」を考えていくと、たとえば“コミュニケーション能力”や“論理的思考力”は面接で確認できますが、“強い精神力”“変化への適応力”“三井物産との価値観フィット”は面接では限界があります。合宿選考ではそこを見させていただこうと、ポイントを決めて設計しました。

役者さんを入れたロールプレイングやグループディスカッション、バーベキューなどさまざまなコンテンツで構成していますが、参加者には繰り返し「ありのままの自分でぶつかり、思いっきり楽しんでください!」と伝えています。「商社ではこういう人物を求めているんだろう」と自分を偽って内定しても、幸せな社会人人生にはならない。私たちが見ているのは「この会社で活き活きと、幸せそうに働いてくれるか?」だとも伝えています。

合宿選考により、どのような変化がありましたか。

一つめの収穫は、いわゆる「スルメ人材」に出会えたことです。コミュニケーション能力が特別高いわけではないので30分間の面接では受からないかもしれないけれど、合宿で3日間一緒にいると、責任感があるとか、隠れたリーダーシップがあって皆に頼られているとか、そういう面が見えます。もう一つの収穫は、参加者の納得感が高いことです。自分がなぜ内定を得られなかったのか、誰が三井物産にマッチしているのかが自分たちでわかるようです。合宿選考も年々進化させています。

お話を伺って、採用活動=それぞれの会社の“らしさ”が体現されているのだと感じます。最後に、三井物産の“採用”と“育成”に携わられて、変化や発見はありましたか。

そうですね…これまでは、本社よりも関係会社へ出向し「現場」で働いている方が面白かったのですが(笑)、人事の仕事はここ(本店)が現場で、メンバーもここにいますし、学生さんとのダイレクトなやり取りもありますし、人事をやって本店の仕事も面白いと思いました。もう一つは、いい人材、三井物産に合う人材を採用するということはもちろん大切なのですが、そのあとの育成も大切で、一人ひとりに気づきの機会を与え、潜在能力をどう伸ばしていくか。人の育成はとても難しいのですが、“採用”と“育成”の両輪が必要だと改めて感じています。

※所属・内容は取材当時のものです


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