理工系の学部を卒業後、技術者としてウシオ電機に入社。製品開発、生産技術、購買、企画など多彩な部門・職種を経験したのち、2019年にグローバル人事戦略部に異動。人材採用・育成の責任者として採用活動の指揮を執る。
Published on 2021/03/10
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澤田 泰宏Yasuhiro Sawada
ウシオ電機株式会社
グローバル人事戦略部
担当課長
理工系の学部を卒業後、技術者としてウシオ電機に入社。製品開発、生産技術、購買、企画など多彩な部門・職種を経験したのち、2019年にグローバル人事戦略部に異動。人材採用・育成の責任者として採用活動の指揮を執る。
「光・イノベーション・カンパニー」というコーポレートキャッチが示す通り、ウシオ電機株式会社は「光」関連製品に特化した東証一部上場のメーカーです。世界最大の産業用ランプメーカーとして知られるほか、半導体リソグラフィー、液晶パネル貼り合わせ装置、シネマプロジェクター用ランプなど、世界シェアトップを保持する製品も少なくありません。一方、B to B分野でニッチな強みを持つ企業だけに、学生からの認知度は必ずしも高くないという課題もあったといいます。2021年新卒採用においてこの課題に挑んだのが、グローバル人事戦略部の澤田泰宏様。自らも技術者として活躍された、澤田様ならではの採用戦略に迫ります。
澤田様はさまざまな職種を経験したのちに、2019年から採用担当に就任されたそうですね。これまでのキャリアについて、簡単にご紹介いただけますか?
入社当初は技術者として勤務していました。4年半ほど製品開発を経験したのち、生産技術に異動してこちらも5年ほど勤めました。次に異動したのは購買部。それからR&D本部に異動して、企画関連の業務や技術者の育成などに携わりました。その後一度購買部に戻ったのですが、公募制度を利用してグローバル人事戦略部に異動し、採用と人材育成を任せていただくことになりました。
なぜグローバル人事戦略部への異動を希望されたのですか?
もともと私は「社内の技術部門とそれ以外の部門の橋渡しをするような仕事」がしたいと考えていました。人事への異動を希望した理由は、当時、採用活動において大きな課題があり、採用戦略に改善が必要であると知ったことです。これまでの経験を活かし、貢献できるのではないかと思いました。
当時の採用課題とは何だったのでしょうか。
母集団の先細りです。学生のエントリー数も、そこから選考に進む人数も年々減少し続けていました。幸い、ウシオ電機とマッチするコアな人材は毎年一定人数採用することはできていたものの、十分に満足と言える状況ではありませんでした。製品がいずれもB to B向けということで、学生さんからの企業知名度も高いとはいえない。新卒採用においては、他のメーカーとの競争で不利になりがちなのです。
母集団の拡大という目標に向けて、2021年卒採用ではどのような採用方針を打ち立てられたのでしょうか?
一言でいうと「実験的な一年」ですね。どんな採用手法が当社に合うのかわからないなか、従来とは違ったさまざまなアプローチを試してみて、効果を検証して次年度以降の方針を決めようと考えたのです。「技術屋」らしい思考法といえるかもしれません。
具体的にはどのような手法を試されたのですか?
当初は、従来通りマス媒体(求人広告媒体)を使ったアプローチを強化しようと考えていました。しかし、このやり方で大手企業、有名企業に競り負けてしまう。そこで2021年卒採用では「個に対するアプローチ」を強化・多角化しました。たとえば専門的な研究をしている学生にダイレクトオファーを送ったり、ターゲティング広告を配信したり。特定の学部学科に紙の採用資料を送付するというアナログ手法も積極的に駆使しました。多くの理系の学生は自分の専門分野を活かせる仕事に就きたいと考えますが、当社のように光関連の専門知識を活かせる企業はほとんどありません。彼らに当社の存在を知ってもらえさえすれば、エントリーしてもらえる可能性は高いだろうと予測していました。
ニッチな技術に特化した貴社らしい手法ですね。理系学生への理解の深さも感じられます。
理系学生を意識した施策としては、選考コースを二つに分けるということも行いました。1月ごろから選考を始める早期コースと、3月以降の通常コースです。これにともない、インターンシップも早期化しました。理由は、世の中全体で採用活動が早期化していることに加え、理系の学生は3月から6月にかけての学会発表に向けて忙しくなるため、早い時期に就職活動を終わらせたいというニーズがあることです。
これらの施策の成果はいかがでしたか?
「2020年2月末までの応募効果」としては、前年比でおよそ3倍にまで増加しました。特にダイレクトオファーは効果が高く、母集団のうち50%がダイレクトオファー経由でした。学生からは、やはり研究分野と仕事内容が一致することが評価されたようです。
ところで、2020年3月以降の応募効果はいかがでしたか?
残念ながら、3月以降は新型コロナウイルスの流行にともない、採用活動を縮小したため、採用の数値としては大幅に低下してしまいました。
コロナ流行期における採用活動はどのように行われていたのでしょうか。
3月以降は、新たな学生との接点をとることを中止し、2月末までの時点で接点のあった学生のみ、引き続きオンラインを活用しながら選考を続けました。結果的に、採用人数は前年よりもかなり少なくなりましたが、私たちとしては収穫も多かったと考えております。
3月で募集を事実上終了するというのはかなり思い切った決断ですね。判断に迷いはありませんでしたか?
人事チームにも経営陣にも迷いはありませんでした。採用人数以上に、内定者とのマッチングのほうが遙かに重要であるという共通認識があったからです。当時はまだオンライン選考でどれだけ相互理解できるかが未知数な状況であり、オンラインのみでは責任を持って選考できないと判断しました。たとえたくさんの方に入社いただいたとしても、ミスマッチがあればその学生の人生に良くない影響を残してしまう。それはどうしても避けたかったのです。
採用の目標数値よりも、学生への責任や、採用後の従業員満足を優先したわけですね。
当社の企業理念に「会社の繁栄と社員一人ひとりの人生の充実を一致させること」というものがあります。採用においてもこのことは最も気を付けなければならないことだと考えています。
選考のオンライン化も含め、HRテクノロジーを駆使した採用手法についてはどうお考えですか。
2021年卒採用では、新型コロナウイルスの流行にともない面接やグループワークをオンラインでおこいました。テクノロジー上、特筆すべき手法があるとすれば、iPadを使用した面接でしょうか。当社の技術系の三次面接は例年、学生と技術的な議題をディスカッションするという内容なのですが、このとき学生には必ずホワイトボードを使って説明してもらいます。ところがオンラインではこれが難しい。そこで今年は学生全員にiPadを配布し、ホワイトボードアプリを使って自由に書き込みながら、オンライン会議アプリを起動したパソコンの前で話してもらいました。
パソコンとタブレット端末を組み合わせた面接を行われたわけですね。所感としてはいかがでしたか?
想像以上に良かったと感じています。ホワイトボードアプリは非常に使いやすかったですし、必要に応じてiPadの写真撮影機能なども活用することで、例年にも増して充実したディスカッションになったと思います。また、面接をオンライン化することで、関東と関西のどちらにいる技術者も容易に参加できるようになったことも、面接の質を高めるのに役立ちました。
そのほか、今後の採用活動において新たに挑戦したいと考えていることがあれば、お聞かせください。
具体的な戦略をひとつ挙げると、海外の学生を対象とした秋採用を確立したいと考えています。当社はグローバルビジネスを展開しており、今では海外での売上が大半を占めています。海外出身者が一緒に働いていると、職場のダイバーシティ(多様性)は自ずと高まりますし、日本人社員の海外文化、海外市場への理解も深まると考えているからです。
一方で、言語の壁や、異文化交流の難しさもあるのではないしょうか。
確かに、パーフェクトな日本語を話せる外国人は多くありません。しかし、それが逆に良い作用を職場にもたらすのです。同期の日本人社員が彼らをフォローすることで、おのずと関係性が濃いものに育っていく。そして、共にグローバルビジネスに挑むという姿勢が生まれる。実際、3年ほど前から海外学生を少しずつ採用するようになり、目に見えて職場に良い変化が出てきました。
それは素敵ですね。コアな技術を磨き、世界に広めていける御社のビジネスは、技術者にとって非常に魅力的なものだと感じます。
その「コアな技術」という点が、これまでは採用で「認知度の低さ」というハンデになっていたのですが、最近はこれを逆手にとって逆に積極的にアピールするようになりました。当社には世界的にも珍しい技術がたくさんある上に、技術者が若手のうちから大きな権限を持って働ける風土があります。実際、私も入社1年目から新製品の開発担当を任せてもらい、とてもやりがいのある仕事ができました。こうした企業風土は、技術者志望の学生にとって魅力的に映るようです。幸い私は技術者出身ですので、自社の技術的な魅力も理系学生の気持ちもよくわかります。これからも、テクニカルな発想で採用業務を効率化させつつ、学生とのマッチング、そして未来の社員の幸福を最優先した採用活動に取り組んでいきたいです。
Special Feature 01
人材データを蓄積し、その後の採用可能性につなげていく「タレントプール」。
新たな採用手法の実現方法を紐解きます。
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