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Interview

コロナ時代のメンタルヘルスを考える
「コミュニケーション3.0」施策の実践

Published on 2022/03/25

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Profile

堤 多可弘Takahiro Tsutsumi

VISION PARTNERメンタルクリニック四谷 副院長
精神科医・産業医

東京女子医科大学病院精神科で助教・非常勤講師を歴任したのち、現在はメンタルクリニックの副院長を務めつつ、産業医としても幅広く活動している。産業医としては「健康問題を経営問題にしない」をミッションとし会社・ビジネスパーソン双方のサポートを専門としている。

コロナ禍により、社会は大きく変化し、働き方も多様になっています。特に、コミュニケーションが円滑にとれなくなったことにより、メンタルに不調を感じる人も増えています。会社のコミュニケーションはどのように変化しているのか、また企業はどのようなポイントに沿って社員のメンタルヘルス対策を行っていくべきなのか。VISION PARTNERメンタルクリニック四谷 副院長で精神科医・産業医の堤 多可弘先生にお話を伺いました。

コロナ×パワハラ時代に求められる「コミュニケーション3.0」

コロナ禍でメンタル不調を訴える人が増えていると聞きます。その背景には何があるのでしょうか?

原因は大きく2つ考えられます。1つはコロナ禍によるリモートワークや職場での交流の減少。もう1つはコロナ前からあったパワハラという問題、これら2つがメンタルヘルスに大きく関わっています。現在は、「コミュニケーション3.0」と呼ばれる時代に突入しています。

最近しばしば耳にする言葉です。

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図の通り、2001年頃までが同質性の高い集団による縦社会が中心のコミュニケーション1.0時代。21世紀に入って経済成長の停滞が明確になり、個性を重視する動きやハラスメントが問題化し始めたコミュニケーション2.0時代と呼ばれています。

2.0時代は、1.0時代のように上司が部下を指導できなくなります。「何を言ってもパワハラになる」と今までの「上司がクロと言えばクロ」的なコミュニケーションが通らなくなってきた一方で、喫煙室や飲み会といった1.0時代のコミュニケーションを使って信頼関係を作り、コミュニケーションの潤滑油としていました。しかしコロナ禍によって働き方や価値観が多様化し、縦社会・上下関係を好まない、あるいは経験していない世代(ワンピース世代)が社会に出始めました。また喫煙室や飲み会といったコミュニケーションを補完する手段も減っています。

つまり3.0時代はこれまでのコミュニケーションが通用せず、なおかつ急激な変化についてこられないことに起因し、さまざまな弊害が生まれている時代だと言えます。

実際に、企業にどのような影響を与えているのでしょうか。

まず、若手社員を中心に離職や休職が加速しています。またストレスチェックの結果においても、リモートワークをしている人のサポートややりがい低下がみられました。仕事の負荷自体は変わっていないのに高いストレスを感じている人が増えています。

このやりがいを回復させるために、ひとつのカギとなるのがコミュニケーションです。コミュニケーションは、エンゲージメント・心理的安全性と深く関わり合っていますが、3つは相互に作用し高め合う関係にあるため、コミュニケーションが良くなれば心理的安全性が生まれ、エンゲージメントも向上できると考えられています。

「コミュニケーション3.0」時代のあるべきコミュニケーションの姿やポイントについて教えてください。

オンラインに対応したコミュニケーションが求められます。ポイントは「つながりを増やす」「量を増やす」「質を高める」の3つです。そしてこれらを実現する要素として「意識的にコミュニケーションの場や機会を作る」「何気ないコミュニケーションのタネを蒔く」「土台を作る」ことが必要になります。

具体的にはどのような施策が考えられますか?

例えばある会社で実際に行われている「もくもくタイム」。これはオンライン会議システムをオンにしたままみんなで黙々と作業する、つまり一緒の時間を共有するものです。これにより仲間意識や安心感が生まれ、心理的安全性が高まります。

あるいは喫煙室のようなコミュニケーションの場所をオンライン上に作るのも良いでしょう。チャット上にいろいろなチャネルを作ったり、雑談用のオンライン会議ツールを入れたりする。特に若い世代は電話やメールよりもチャットの方が使い慣れています。実際にチャットを使った途端にコミュニケーションが活性化したという事例もあり、オンライン上でも「意識的にコミュニケーションの場や機会を作る」ことは可能です。

確かに、コミュニケーションのきっかけは重要です。

「何気ないコミュニケーションのタネを蒔く」のにおすすめなのが「日替わりベスト3」です。毎日持ち回り制で誰かが決められたテーマでマイベスト3を発表するというもの。テーマは「好きな漫画」や「好きな映画」など何でも良くて、選んだ理由も一緒に話します。お互いにコメントをすることでコミュニケーションが活性化するとともに、心理的安全性を高めることが可能です。

最後の「土台を作る」とは何を指しているのでしょうか。

これは共通言語の整備が該当します。いわゆる“略語”をみんなできちんと揃えて使いましょう、ということです。オンラインでは情報の補完が難しいので、ちょっとした言葉のすれ違いがストレスになりかねません。こういった認識を意識的に揃えておくことが大切です。

コミュニケーション3.0時代の正しい叱り方・褒め方

近年社会問題にもなっているパワハラもメンタル不調の原因として挙げられます。パワハラを防ぎ、社員のパフォーマンスを上げる方法はあるのでしょうか?

正しい叱り方・褒め方がポイントになります。叱るという行為は組織において不可欠ですが、一歩間違えるとパワハラになります。また間違った叱り方はやる気や心理的安全性を削ぐ原因となるため、正しい叱り方が必要です。

正しい叱り方、とは……?

そもそも叱るとは、相手の良くない点を指摘して是正してもらう、つまりリクエストが目的だということを認識しましょう。上手な叱り方のポイントは、「リクエスト内容(具体的であるか/リクエストに応じる行動の評価ができるか)」「基準(叱るときの基準が明確で納得できるか)」「表現方法(適切な態度や言葉遣い)」の3つです。

基準や内容が明確であれば、叱られる側も納得できます。

逆に、機嫌で叱られる/人格を否定される/人前で見せしめにされる、などは悪い叱り方です。あくまでもリクエストを伝えるために叱るわけであり、自分の感情をぶつけるものではありません。

叱るとまではいかないけれど何かを指導したい場面でも、何かコツはあるのでしょうか?

「PNP法」が効果的です。最初にポジティブなことを伝え、次にネガティブなこと、最後にもう一度ポジティブなことを伝えるというもので、この順番で伝えると相手にとって聞き入れやすくなります。また、ネガティブなことを伝えるときには「強いて言うなら」「あえて言うなら」といったクッション言葉を入れることで、心理的な抵抗感を下げることができます。

叱るのと同じように褒めることにもルールやポイントがあるのでしょうか。

褒めるときには「何がどのように良いのか」「感謝も込めて」「すぐに」伝えることが重要です。特に日頃からPNPを意識して、相手の良いところを探す練習をしてみてください。褒めるところを探すようにすると相手の良いところに目が向くようになりますし、指導する側のストレスも軽減されます。

メンタル不調をいち早く発見するために

堤様は産業医としてもご活躍されていますが、産業医と上手に関わっていくにはどうすればよいのでしょうか?

産業医との関わりをお話しする前に、私が考える産業医のミッションをお伝えしておきます。それはずばり「健康問題を経営問題にしない」ことです。これには2つの意味があって、1つ目は生産性を損ねる健康問題を防ぐこと、2つ目は持病の悪化や偶発的な事故のような避けられない健康問題が起きても経営問題にならないように処理する制度を整えておくことです。

特にメンタル不調に関しては早期発見・早期対応が非常に重要です。これだけで影響を最小限に抑え、経営問題になることを防げます。

メンタル不調を早期発見するにはどのようにすればよいでしょうか。

メンタル不調を早期発見するコツ、キーワードは「KAPE」です。職場で問題化・表面化しやすい要素である「勤怠(遅刻、欠勤など)」「安全(健康面において安全な就労ができているか)」「パフォーマンス(ミス増加、集中力低下など)」「影響(周囲への悪影響を及ぼしていないか)」の頭文字をまとめたものになっています。

これらが看過できなくなった時点で、「KAPEサインあり」=管理職や人事労務の方が産業医に相談を検討するための目安だと考えてください。病気の有無に関係なく、サインに気づいた時点で産業医に相談したり、本人に理由を確認したりすることが必要です。

リモートだとなかなかKAPEサインを見抜くのは難しいかもしれませんが、例えば「チャット上の雑談の頻度が減る」「オンライン面談での表情や服装などを確認する」など、アンテナを張っておくことで、不調の早期発見につながります。

とはいえ、実際に不調を判断するのはなかなか難しそうです。

自分一人ではなかなか不調を判断できないという場合におすすめなのが「2×2メソッド」です。これは「2週間前の状態と現在の状態を」「2人以上で」確認するというもの。メンタル不調は徐々に進行していくので短期間では気づきにくいのですが、2週間前と比べると気づくケースが多くあります。

例えば2週間前に比べて元気がない、メールの返信が遅いといった異常を2人以上の人が感じたら産業医に相談してください。早期対応をすればするほど健康上の問題も経営問題も大きくならないうちに解決できるでしょう。

産業医を活用することで、会社にとっても社員にとっても早い課題解決につながるのですね。最後に、今後の企業におけるコミュニケーションはどのように変化していくのか、お考えをお聞かせください。

ロボットやオンラインツールの進歩・活用により、今まではリアルで働いている延長線上にオンラインがあったのが、オンラインが前提の時代がきます。遠隔からの就業が可能になり、さまざまなバックグラウンドの人たちと働く世の中・時代になっていくと考えられます。

そうなったとき、コミュニケーションを含めてもっとさまざまな課題が降りかかってくる「コミュニケーション4.0」の時代がやってくるのは明白です。その課題にいち早く適応するためにも、その手前の段階である「コミュニケーション3.0」に、できるだけ早くアップデートしていただきたいと考えています。

 

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