1984年、株式会社電通入社。クリエイティブ部門、営業部門を経て、2004年からのアジア統括会社赴任時にアジアネットワークの企業内大学を設立。帰任後は人事部門でキャリア施策開発に携わる一方、東京汐留エリアの企業・行政越境コンソーシアムを立ち上げる。2017年、電通アルムナイ立ち上げ。2019年4月に独立。国家資格キャリアコンサルタント。
酒井 章Akira Sakai
アルムナイ研究所 所長
株式会社the creative journey 代表
1984年、株式会社電通入社。クリエイティブ部門、営業部門を経て、2004年からのアジア統括会社赴任時にアジアネットワークの企業内大学を設立。帰任後は人事部門でキャリア施策開発に携わる一方、東京汐留エリアの企業・行政越境コンソーシアムを立ち上げる。2017年、電通アルムナイ立ち上げ。2019年4月に独立。国家資格キャリアコンサルタント。
人材の流動化が進み、キャリア採用が活性化する中、企業が人的資本経営の実現に向けて注目されている「アルムナイ」という概念。退職者(=アルムナイ)と企業との間でゆるやかなコミュニティを形成し、Win-Winの関係を築こうとする企業が増えていると言います。とりわけ採用領域では、退職者が他業界・他領域の知見を活かし、再入社する「アルムナイ採用」が、今後の採用の可能性を広げる取り組みとして関心を集めています。
今回インタビューにお応えいただいたのは、日本におけるアルムナイ活動を通じて「人と組織のより良い関係」を研究するアルムナイ研究所の酒井章氏。本記事では、アルムナイの基本概念や社会的な背景、アルムナイネットワークを構築するメリットなどについて解説いただきます。
まずは改めて、酒井様のご経歴をお聞かせください。
私は1984年に電通へ入社し、コピーライター、営業を経て、2004年からはアジア統括会社に赴任し、アジアネットワークの企業内大学を設立しました。このとき驚かされたのが、シンガポールをはじめとする東南アジアの広告業界では転職率が30~40%にものぼり、非常に人材の流動性が高かったこと。しかも、一度辞めた社員が戻ってくるケースも少なくありませんでした。当時、電通本社(日本)の転職率は数パーセントでしたが、いずれ日本もアジア市場のようになるだろうと直感しました。これがのちのアルムナイ設立の原点です。帰国後は人事部門でキャリア施策開発などに携わり、2017年には電通社内で電通アルムナイ(電通の卒業生を中心とした交流コミュニティ)を立ち上げました。2019年に独立し、現在はアルムナイ研究所長としてアルムナイの研究と普及に取り組んでいます。
さまざまな側面から人事領域に携わる中で、アルムナイに着目した理由は何でしょうか。
グローバル化が進み、日本企業の終身雇用・年功序列型経営が変化を迫られる中、企業とそこで働く人の新しい関係を模索しなければならないという意識がありました。従来は企業と個人は親と子のような関係にありましたが、終身雇用が崩れようとしているいま、それがパートナーという関係になっていきます。個人は定年を待たずに会社の外に出て、変化に対して柔軟なキャリアを構築していく。同時に、退職した企業や他の退職者(アルムナイ)ともコミュニティを形成し、互いにメリットを交換する。そのように企業とアルムナイとがフラットでWin-Winとなる「終身信頼関係」を築くべきだと考えたのです。
アルムナイ研究所設立に至った背景を教えていただけますか。
私は電通社員としてアルムナイネットワークの構築に携わったのちに独立しました。そこで私自身がアルムナイになり、会社の内側・外側という両方の視点を持っているアルムナイの価値に改めて気づきました。この「複眼」の視点は、アルムナイ自身にとってはもちろん、企業にとってもとても重要なものです。しかし当時の日本では、企業内でアルムナイ構築に携わり、その後に自分がアルムナイとなる事例が多くはありませんでした。その経験を活かしてアルムナイの価値を日本に広めるため、研究所を立ち上げました。
酒井様からみた現在の採用マーケットの状況と、その中でアルムナイ採用が注目されている理由について教えてください。
いま、多くの企業が経営戦略を一挙に変革(Transform)しつつあります。新事業の立上げに挑み、同時に経営戦略や人事戦略をモデルチェンジする企業が非常に多い。企業を取り巻く急激な環境の変化がコロナ禍によって顕在化し、変革が加速したという印象です。この困難な状況で企業が生き残るためにはイノベーションが欠かせませんが、自社の人材だけでそれを起こすのは難しい。企業がそうしたイノベーション人材を獲得する方法は、従来は自社内で育てるか外部から採用するかの二択でしたが、人手不足の現在はどちらも難易度が上がっています。そこで第三の選択肢として注目されているのが、アルムナイ採用というわけです。
なぜアルムナイ採用がイノベーション人材の獲得に有益なのでしょうか?
まず、アルムナイは自社の実情やカルチャーをよく知っているので、ミスマッチが少ない。阿吽の呼吸でスムーズに活動できる点が、通常のキャリア入社者とは異なります。さらに、会社の外の世界を経験することで、社内では得られない広い視野や多様なスキルを持っていることが、イノベーションを起こす要因になり得ます。ちなみに、現在広がりつつある人的資本経営を推進する企業が、同時にアルムナイ構築に取り組んでいる傾向が見受けられます。
酒井様の考える、理想の企業とアルムナイとの関係とはどのようなものでしょうか。
先ほども申しあげたように、企業とアルムナイがフラットでWin-Winの関係であることが重要だと思います。もしこの視点が欠けていたら、企業が採用を希望してもアルムナイが入社することは難しいでしょうし、仮に入社しても活躍することも難しくなるでしょう。そういう意味では、アルムナイの存在は企業と個人の関係性を可視化する「フィルター」のようなものだと言えます。実際、アルムナイネットワークを立ち上げ、長く存続している企業には、そもそも人を大切にする組織文化が根づいています。また、「アルムナイ」と一言でいっても、ニーズは人それぞれ違います。企業側はそれを理解する必要があるでしょう。
アルムナイ側のニーズとはどのようなものですか?
「所属していた会社に戻って元の仲間と一緒に働きたい」とすでに考えているアルムナイがいる一方で、もっとゆるやかに、愛着のある古巣とのつながりを保っていたい、ビジネス上の情報交換をしたいという、採用にはすぐに結びつかないニーズもあるでしょう。企業側は、そうしたアルムナイの個別のニーズを理解してコミュニケーションをとる必要があります。こうした柔軟なコミュニティ型の関係性は、今後の主流になってくるように思います。
組織と人との関係性を向上させることが、アルムナイネットワークの構築、ひいてはアルムナイ採用に欠かせないわけですね。
その通りです。従来の日本では終身雇用型の経営が主流であり、会社が社員を家族のようなものとみなして守るという価値観がありました。そのため、ともすると退職した人を「裏切り者」と見なし、再雇用をネガティブに考える傾向が生まれます。しかし、終身雇用型でなくなりつつあるいま、会社と卒業生(アルムナイ)の関係は、必要なときには再度手を取り合い、時には互いのビジネスを成長させるパートナー同士であるべきではないでしょうか。アルムナイ採用を成功させるためには、まずはアルムナイと退職後も良好な関係を維持していく必要があると考えます。
アルムナイ研究所についてはこちら(外部サイトに遷移します):
アルムナイ研究所 – アルムナイ研究所は、日本の文化に根ざした「
ーVIEW 2768
Special Feature 01
人材データを蓄積し、その後の採用可能性につなげていく「タレントプール」。
新たな採用手法の実現方法を紐解きます。
コンテンツがありません