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Interview

「世界一従業員が幸福な会社」を目指して。
オリエンタルランドがエンゲージメント&ジョブ・クラフティングに取り組む理由

Published on 2022/06/17

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Profile

瀧澤 雄一朗Yuichiro Takizawa

株式会社オリエンタルランド
人事本部 人事部長

1997年、株式会社オリエンタルランドに新卒入社。運営本部運営部にてテーマパークのアトラクション担当者、時間帯責任者を経験。2005年より、営業本部営業管理部にて2つのテーマパークのマーケティング戦略立案に従事。2007年より人事本部にて、約2万人の準社員(アルバイト)の採用および人事制度の策定・管理に従事。2015年、ワークフォースマネジメント部長に就任、キャストの労働力需給管理やITシステム開発プロジェクトを指揮。2019年、キャスティング部長に就任、新人事制度を導入。2020年より現職。採用、評価、配置、報酬、教育に至る社員の人事制度全般を管理している。

川上 真史Shinji Kawakami

株式会社ヒューマネージ 顧問 / ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 専任教授

産業能率大学総合研究所研究員、ヘイ・コンサルティンググループ コンサルタント、タワーズワトソン ディレクターを経て、現職。数多くの大手企業の人材マネジメント戦略、人事制度改革のコンサルティングに従事。

日本を代表する大型テーマパークを運営している、株式会社オリエンタルランド。充実した施設やアトラクションはもとより、キャスト一人ひとりが発揮するサービスの質の高さにおいて名高く、日本中のファンから熱烈な支持を受けています。そんな同社が今、従業員の幸福度や働きがいの向上に向け、新たな人事施策に取り組んでいます。それは、ジョブ・クラフティングの実践による、エンゲージメントの向上。人事部長の瀧澤雄一朗氏が中心となってスタートしたプロジェクトは経営陣を巻き込み、その対象を全従業員に広げるという施策です。なぜ、オリエンタルランドではこれほどエンゲージメントを重視し、なおかつ実現できているのか。早くからエンゲージメントを高める「ジョブ・クラフティング」という概念を提唱されてきた川上真史氏との対談を通じて、その秘密に迫ります。

コロナ禍を機に、従業員の幸福と働きがいを見直す

川上先生はエンゲージメントを「働くことにのめり込み、やりがいや意義を感じている状態」、ジョブ・クラフティングを「仕事を自ら創意工夫し、自身の仕事をより面白いものへと変化させる力」と定義し、これらが働く人の幸福と企業の業績向上につながることを研究によって明らかにされています。そして株式会社オリエンタルランドでは今、人事部長である瀧澤さんが中心となって、川上先生の理論を取り入れて従業員のエンゲージメント向上に取り組まれているということですね。本日はお二人に、この取り組みについて対談いただきたいのですが、まずは改めて瀧澤さんから、オリエンタルランドの企業理念や企業風土についてご紹介いただけますか。

瀧澤:
当社は「自由でみずみずしい発想を原動力に すばらしい夢と感動 ひととしての喜び そしてやすらぎを提供します。」という企業使命を掲げ、テーマパークを運営しています。企業風土の特徴としては、「ハピネス」「幸せ」という言葉が自然に使われることが挙げられます。お客様に対してはもちろん、ともに仕事をする仲間に対しても、相手の立場や相手を察する気持ちを大切にする。複数の独立した組織が運営に関わっていますが、夢・感動・喜び・やすらぎ、そしてハピネスというキーワードの元、一つになれる。……そうした当社の風土は、設立当初から変わらず貫かれているものだと思います。

川上:
設立当初というと、テーマパークが開業される前からということですか?

瀧澤:
オリエンタルランドの設立は1960年にさかのぼります。設立の目的は「浦安沖の海面を埋め立てて開発し、国民の文化・厚生・福祉に寄与する」というものであり、当初から顧客・従業員双方の「幸福」を追求する風土があったと聞いています。現在運営しているテーマパークが開業したのは1983年ですから、それよりもかなり前ですね。

川上:
つまりテーマパークありきの企業理念ではなく、最初に幸福を重視する理念があって、それを実現するためのテーマパーク事業であった、ということですね。貴社が現在エンゲージメントを重視した施策を展開されているのも、根源的な理念に基づくものなのだと改めて理解しました。ところで貴社では昨年(2021年)からエンゲージメント向上に向けた取り組みを実施されていますが、従業員のモチベーションについて考え始めたきっかけは何だったのでしょうか?

瀧澤:
最も大きな要因は、新型コロナウイルスの流行でした。お客様にお越しいただき楽しんでいただくという自分たちの仕事が思うようにできなくなったことで、多くの従業員が自信をなくしてしまっているように私には感じられたのです。これを機に、オリエンタルランドの従業員にとってのプライドや働きがいについて、改めて定義づけしなければならないと考えるようになりました。

川上:
人に喜んでもらうことで仕事にエンゲージする、という人はたくさんいます。貴社には顧客が喜び、幸福になっている姿を常に見ることができる恵まれた環境がありました。それがコロナで失われたのは大きなショックでしょう。しかし瀧澤さんはこれを、エンゲージメントを考える良いチャンスととらえたわけですね。具体的にはどのような取り組みから始められたのですか?

瀧澤:
最初は人事本部の社員同士で、働きがいとは何か、従業員にとっての幸福とは何かについて話し合いました。その結果、「ゲストにハピネスを届ける」という共通のキーワードが出てきました。続いて役員に対してもインタビューした結果、「ゲストにハピネスを提供することこそがやりがいであり、幸福である」という想いは全役員に共通するものだったのです。だとすれば、これこそがオリエンタルランドの働きがいなのではないか。この働きがいをどのように全社に再認識してもらえばいいのか……と考えていたときに、たまたま川上先生のWebセミナーを拝見し、ワーク・エンゲージメントやジョブ・クラフティングの理論を知りました。すぐに先生の著書である「人事のためのジョブ・クラフティング入門」も読み、これこそが今のオリエンタルランドに必要なものだ、と確信しました。

川上:
その後、瀧澤さんからヒューマネージにご依頼いただき、私はオリエンタルランド様の社内研修に関わらせていただきました。

上層部の「KATARIBA」から、エンゲージメント施策をスタート

エンゲージメント理論を取り入れながら、エンゲージメント向上に取り組んでいく上で、どのようにして進められたのでしょうか。

瀧澤:
まずは上位層からマインドセットを変える必要があると考えました。そこで全役員、全部長、一部マネージャー層を対象に「KATARIBA(語り場)」という企画を実施しました。これは、改めて「自分の働きがいとは」「メンバーにどうあってほしいか」「そのために自分たちは何をするのか」といったことを話し合い、言語化するものです。抽象的にエンゲージメントの概念を語るのではなく、この会社に入ってから何にモチベーションに感じたかという「モチベーション曲線」を書いて持参してもらい、実際の体験に基づいてエンゲージメントやジョブ・クラフティングについて語ってもらいました。部長陣に対しては、3人一組で2時間半。15セットぐらいを約3ヶ月かけて実施しました。その後、マネージャー層の約3分の1に対しても同様のKATARIBAを行いました。

川上:
上位層からアプローチすることは、エンゲージメント向上においてはとても大切なことですね。上司が仕事に対してエンゲージしていると、自然に部下のエンゲージメントが高まることが証明されています。逆に、仕事にエンゲージしていない上司を持つ部下は、組織の中でエンゲージできないため、取引先など、組織外の人間関係だけにエンゲージしていくことが多いようです。そうすると組織としての求心力は低下してしまうわけです。それに、エンゲージメントを向上するには仕事を手作りするジョブ・クラフティングが欠かせませんが、そのためには上司が部下にジョブ・クラフティングを推奨する土壌が必要です。その点でも、上層部からマインドセットを変えることが重要ですね。その後、KATARIBAはどのように展開されているのですか?

瀧澤:
まずは上位層とのKATARIBAで出てきた言葉を整理し、「オリエンタルランドが考える従業員の幸福、働きがい」を定義しました。これは当社のエンゲージメント施策における大きなターニングポイントだと思います。そして現在は、組織ごとに働きがいについて対話する「組織KATARIBA」を実施し、組織ごとに部長・マネージャーの管理職層がこの1年どのように仕事に取り組み、メンバーをエンゲージさせていきたいかについて話し合ってもらっています。

川上:
言語化することはとても大事なことですよね。人に語ることによって初めて、だんだん自分のやりがいや、何に幸福を感じるのかといったことが見えてきます。組織KATARIBAの手応えはいかがですか?

瀧澤:
今では各組織が、メンバーを交えて自発的にKATARIBAを実施して始めています。少しずつ人事の手を離れ、各組織なりにKATARIBAを工夫して進めている状態です。

川上:
エンゲージメント向上に関する施策を始める際に苦労したことや、現在、課題に感じていることはありますか?

瀧澤:
エンゲージメントという言葉を初めて聞く人もいましたが、内容を説明するとすぐに共感してもらえました。一般にエンゲージメント施策では「エンゲージメント」という概念を伝える難しさがあると聞きましたが、その点で当社は比較的簡単にクリアできたと感じています。ただし、今後は管理職だけではなく、各組織のメンバー1人ひとりに対してもエンゲージメントを広めていかなければなりません。自分で仕事の楽しさを見つけられる管理職層と比べ、メンバー層にはまだそうではない人もいると思います。いかに各組織のメンバーがジョブ・クラフティングを実践するかが鍵になってくると思います。

オリエンタルランドが目指す「ジョブ・クラフティング」とは

ジョブ・クラフティングの実践に向けて、どのような取り組みを行っているのか、またそこにどのような課題を感じておられるかについてお話しいただけますか?

瀧澤:
エンゲージメントを高める具体的な方法がわからない、と迷う管理職やメンバーにとって、ジョブ・クラフティングは素晴らしいヒントになったと思います。川上先生の提唱するジョブ・クラフティングは、「仕事のやり方を自ら工夫すること」や「関係性の構築」、「仕事の意味づけ」といった具体的な行動に落とし込めるため、社員にもわかりやすく伝えることができました。

川上:
テーマパークを含め、人に対してサービスを提供する仕事には親和動機(他者の承認を得たいという欲求)の高い人が就きたいと思うケースが多いのですが、実はそういう人はバーンアウトしやすいという研究結果があります。期待したほど顧客に喜んでもらえないと、心が満たされないからです。また、顧客のほうも、自分が喜ぶことを求められていると敏感に感じてしまい、心の底から楽しめないようです。一方、達成動機(何らかの価値的目標を達成しようとする動機)が強い人はサービス業でも定着しやすい。自ら自発的に目標を設定し、それに向かって自分でやり方も決めていくからです。例えば「あのお客様にこんな感じで喜んでもらいたい」と自ら目標を立て、そのための行動を考える。そういう人のほうがやりがいを強く感じられ、顧客も自然なサービスだと思えるようになります。これこそまさにジョブ・クラフティングの考え方です。

瀧澤:
当社のテーマパークのキャストも、パークの理念を正しく理解し行動基準を守ってさえいれば、ゲストに喜んでいただくための行動はある程度、自由です。自ら仕事をクラフティングできるキャストほどゲストに喜ばれますし、長く定着する傾向がありますね。

川上:
マニュアルの考え方は日米で違うと言われていて、アメリカのマニュアルは貴社と同じく「最低限これだけは守ってね。それ以外は自由にしてください」というもの。それに対して一般的な日本のマニュアルは「マニュアル通りにしないといけない」と自由を制限するものになりがちです。そうするとエンゲージメントが下がってしまうんですね。顧客から見ても、マニュアル通りの対応で喜ぶ人はいません。貴社向けの研修でもお話ししたのですが、ジョブ・クラフティングにおいては「絶対に変えてはいけないところ」をまずクリアにし、それ以外のところを自由にクラフティングしていくことが大切です。

瀧澤:
当社の従業員は「人を楽しませたい」という気持ちが強いので、ジョブ・クラフティングの得意な人はもともと多いと思います。

川上:
先日、久しぶりに貴社のテーマパークに行ったのですが、他のテーマパークにはない深い満足感が得られました。それによく似た言葉を最近知ったのですが、それは韓国でよく使われている「代理満足」という言葉です。韓国ではコロナ禍になって以来、動画制作者が海外旅行に行ったり買い物をしたりする動画が流行しているのですが、面白いことにそれらの動画では制作者自身の姿は映らないのです。だから視聴者は、自分自身が制作者に代わって旅行に行ったり料理を食べたりしているような体験ができる。「面白い動画を見た」ではなく、自分も制作者側の視点から満足を得られるというものです。これが代理満足です。貴社のテーマパークのキャストも、ゲストに一種の代理満足を与えてくれているように思います。つまりキャストが「自分たちがエンターテインしよう」と前面に出るのではなく、あくまでゲストが主役であると感じさせてくれるような、奥深いサービスを実現されているわけです。

瀧澤:
代理満足という言葉は初めて聞きましたが、「主客一体」のサービスは昔から従業員も意識していると思います。

川上:
ゲストを幸せにすることに一貫して取り組み続けてきた貴社だからこそ、エンゲージメントやジョブ・クラフティングの概念がスムーズに浸透していくのでしょう。ちなみに、瀧澤さんはオリエンタルランドに入社したことで、ご自分のキャリアや仕事観がどのように変わったと感じられますか?

瀧澤:
他社で働いたことがないので比較は難しいのですが、私自身はどの会社に行っても人を楽しませる仕事をしたいと思っていました。ただ、当社がどうやら他社と違うらしいと感じるのは、従業員全員が「人を楽しませたい」と本気で思っている会社である、ということです。だからもともとみんなエンゲージメントも高い。とはいえ、意図的に高めなければ組織エンゲージメントは低下してしまう。人事部長として、この会社全体のエンゲージメントを高められたときが、私自身が仕事にエンゲージできていると感じる瞬間ですね。

川上:
部下や社員の人達のエンゲージメントが高まることを楽しめるのは、マネージャーとして重要な資質だと思います。まさに代理満足ですね。では、今後の人材戦略についてはどのようにお考えですか?

瀧澤:
オリエンタルランドではこれまで、「働く人」を「人財」と表記していたのですが、最近「人材」に変えました。「人が財産である」ことは変わりませんが、様々な種類の木の組み合わせから素敵な森ができるように、多様な人材がそれぞれの個性を育て、変化しながら豊かな組織を作っていく、そういう会社でありたいという想いが込められています。そして日本一、いや世界一従業員の幸福度が高い会社を目指して、これからもエンゲージメント向上に向けた施策に取り組んでいきたいと考えています。

川上:
多くの人が、オリエンタルランドこそそういう会社であってほしい、と期待していると思います。どうせなら世界一どころじゃなく、銀河系一のエンゲージメントを目指して頑張りましょう! テーマパークでは宇宙旅行できますので。

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