MENU

TOP  >  インタビュー  >  中小企業や無名企業にも、必ず勝機はある。自分なりの流儀で成功...

Interview

中小企業や無名企業にも、必ず勝機はある。
自分なりの流儀で成功する“無手勝流”採用とは(後編)

Published on 2022/10/28

VIEW 2101

Profile

海老原 嗣生Tsuguo Ebihara

株式会社サッチモ代表取締役
政府労働政策審議会人材開発分科会委員、
中央大学大学院戦略経営研究科客員教授、大正大学表現学部特命教授

大手メーカーを経てリクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画推進、人事制度設計等に携わる。 その後リクルートワークス研究所『Works』編集長。2008年HRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。「エンゼルバンク」(モーニング連載)の主人公海老沢康生のモデルでもある。『人事の成り立ち』(白桃書房)、『人事の企み~したたかに経営を動かすための作戦集~』(日経BP)など、著書多数。

著書のご紹介

「少子化で新卒採用の難易度が上がった」「中小企業に集まる人材は質が低い」……。社会の在り方や働き方の変化によって勢いを増す「人」にかかわるさまざまな言説に、雇用ジャーナリストの海老原氏が鮮やかに切り込んだ一冊。採用市場のデータやロジックを紐解きながら、本インタビューでも取り上げる採用の現場で役立つ実践的な戦術と作戦を解説する。

「有名企業、大企業じゃなくても、工夫次第でいい人材はちゃんと採用できる」と看破する、雇用ジャーナリスト・海老原嗣生氏。「他社がしないことをする」「顧客=学生にサービスをする」というポイントを軸に、自在な施策を展開する「無手勝流採用」を提唱しています。前編では、同業界の人気企業をフックにイベントの集客力をアップする「虎の威を借る”雲隠れの術”」について語っていただきました。引き続き、後編では第2のアイデア「絞れば強くなる~“凸”と“凹”をうまく嵌め合う~」、そして第3のアイデア「即効性のある“制度”でアピールする」について語っていただきます。

「中小企業や無名企業にも、必ず勝機はある。自分なりの流儀で成功する“無手勝流”採用とは(前編)」はこちら

ターゲットを絞れば強くなる。“凸”と“凹”を嵌め合う採用術

前編では「無手勝流採用」第1のアイデアとして「虎の威を借る“雲隠れの術”」についてお話しいただきました。後編では残りの2つのアイデアについても教えていただきたいと思います。

早速、第2のアイデアを紹介しましょう。それは「ターゲットを搾り、“凸”と“凹”をうまく嵌め合う」というものです。これは何かと言いますと、母集団を増やすことばかり考えずに、自社に合った人材にターゲットを絞りましょうという考え方ですね。一般に採用では、母集団を増やすほどたくさん採用できると考えがちなのですが、気がつくと最後には応募者がみんな去ってしまった、ということもしばしばあります。自社が必要としている学生、同時にその学生が自社を必要としているような学生に的を絞れば、母集団は減るけれども逆にうまく採用につながります。つまり、企業と学生がもつ、互いの「凸」と「凹」、すなわち長所と短所を組み合わせるイメージですね。

採用活動・就職活動では普通、企業も学生も自分の長所をアピールするものと考えられています。なぜ「短所」にも注目するのでしょうか。

おっしゃる通り、就活ではみんな長所の話ばかりしようとします。でも、自分の長所というのは案外話そうとしてもうまく出てこないし、無理やり出そうとしてつまらない話になってしまいがちです。ところが日本の学生は「あなたの欠点は何ですか」と聞けば驚くほどすらすら答えが返ってくる。しかも長所の場合と違ってリアリティがあるのですね。そして実は、短所というのはたいてい長所の裏返しです。例えば「私は小心者なんです」という人は、裏返せば慎重で用意周到な性格だったりする。「口下手」は「聞き上手」、「KY」は「ハートが強い」という風に、全部長所に変換できます。

面接にも応用できそうな考え方です。

企業にとっても同じです。多くの企業は自社の長所ばかりアピールしようとします。すると「グローバル展開している」「リーダーシップを持つ人材を積極的に登用している」「若手が活躍している」などのありきたりな話になってしまい、学生の関心を惹きつけることができなくなる。重要なのは「あなたの会社らしさは何ですか」ということ。それが、一般的に「弱み」とされていることでもかまわないわけです。

企業にとって、あえて弱みを明らかにするメリットはあるのでしょうか。

例えば「グローバル展開」や「リーダーシップを発揮できる環境」といったことは、一般的には強みとされています。しかし、学生の中には「海外に行きたくない。できれば地元で働きたい」という人や、「リーダーシップを発揮するより、指示に従って働くほうが自分には向いている」という人もいます。彼らは行き場がなくて困っているわけです。彼らにとっては、「当社は国内事業しかやらない。できれば県外にも出たくない」「当社の社長は、つべこべいわずに黙ってついてこいというタイプだ」といった「ネガティブ」な要素が、逆に大きな魅力となりますよね。これこそが「凸と凹がぴったり合う関係」です。ほかにも、同世代の派手さについていけない学生にとって「当社には50歳以上のシニア社員しかいない」という情報がプラスに働いたり、中国語を使った仕事がしたいが語学力にあまり自信がない学生にとって、「うちには中国語を使える社員が一人もいない(ので、拙い語学力でも重宝される)」という情報がプラスに働くといったケースが考えられます。

しかし、そうした情報は大多数の学生にとってはやはりネガティブに映ってしまうのでは……?

もちろん、そうした情報がプラスに映る学生は少数派です。しかし、少数派ではあるけれども、すべて合わせれば相当の人数になる。仮に10万人の学生がいたとして、そのうち1万人がそういう人だとすれば、ターゲットとする価値は十分あります。それに、彼らは自分の短所を受け入れてくれる会社が見つからなくて困っているわけですから、採用効率はかなり高いと言えるでしょう。

困ったときは、即効性のある“制度”を作ってアピールする

第3のアイデアについても、お話しいただけますか。

最後のアイデアは、「即効性のある“制度”でアピールする」というものです。会社の社風というのは採用においては重要な武器となりますが、なかなか自分たちで変えるのは難しい。そこで私が提案しているのが、制度を作ってしまうというアイデアです。制度というのはその気になればすぐに作れますし、学生に対するアピールとしては即効性が高い。しかも制度が定着していくと実際に企業の風土も変わっていく。つまり一挙両得の施策であるわけです。

採用活動に役立つ制度とは、例えばどのようなものでしょうか。

ポイントとなるのは、「うちの会社に入ると安心ですよ」と伝え、「この会社に入ればきっとがんばれる」と思ってもらえるような制度を作ることです。一例を挙げますので、次の図をご覧ください。

 

1

図の左側は難易度が低い制度、右側は難易度が高い制度です。すぐに新しい制度を導入してみたいという企業には、難易度の低い制度をお勧めします。例えば「内定者向け父母説明会」は、やろうと思えばすぐに実施できる制度ですね。知名度がない企業や小規模な企業の場合、学生の両親が入社に反対することがネックになる場合がありますが、会社が直接丁寧に説明をすれば、両親はもちろん学生にも安心感を与えられます。ほかにも、内定者を先輩社員の仕事に同行させたり、納会や忘年会などに招待するのも簡単な制度ですね。入社前に会社の社風を知ってもらえるので、安心感もマッチングも高まります。

入社前の不安を払拭するのに役立つ制度ですね。しかも、簡単に他社との差別化ができます。

会社の風土自体を変えていける制度としては、「MVS(最優秀サポート賞)」なども効果的です。MVPではなく、縁の下の力持ちとして頑張った人たちを表彰する。学生はもちろん、社員のモチベーションも高まります。「ヒミツの社長飲み会」というのも面白いですね。これは毎月社長が新人の誰かと飲みに行くのですが、中間管理職には秘密になっている。新人は社長に悩みを直接打ち明けられるので安心だし、いつ社長に行状を報告されるかわからない中間管理職の姿勢も引き締まります。

どんな企業でも、「自社らしさ」を活かして差別化できる

3つのアイデアから成る「無手勝流採用」、よくわかりました。しかし、企業の採用担当者からは「他社との差別化を図ることが大事だとはわかっているけれども、うちは地味で堅実な会社だから派手な採用企画は合わない。どうすればいいだろう」という悩みの声も聞かれます。こうした悩みを持つ企業に対して、海老原様からアドバイスはありますか?

結論を先に言えば、「真面目な社風を活かした面白い採用企画」も可能です。実例を一つ紹介しましょう。ある会社が、最終選考で面接をするのをやめて、代わりに社員と一緒にハイキングをすることにしました。ハイキングを通じて「素」の姿を見ることで、率先して人助けができる性格なのか、手際よく作業できるタイプか、といった要素を見抜く施策です。これが高い成果を上げ、今ではいろんな会社が真似しているそうです。しかし、そのエピソードをある典礼系の会社の経営者に伝えたところ、「当社もそういう面白いことをやってみたいけど、真面目な社風だからちょっと難しいですね……」とお困りになっていました。ところがその一年後、その会社がしっかり自社なりの企画を考えてこられたのです。

それはどのような企画だったのでしょうか。

学生向けにマナーコンテストを開催したのです。名刺交換や話し方といったビジネスマナー全般を競い、マナーのプロである社員からの評価やアドバイスを受けられるというイベントですね。学生は就職活動に向けてビジネスマナーを磨きたいと思っているから、喜んで参加します。そしてマナーコンテストで上位に入る学生は、真面目で品のいい人が多い。冠婚葬祭を司る典礼系の企業にとっては、そういう学生こそ最もほしい人材ですので、彼らを採用することによって採用の効率も質も格段に上がりました。

ユニークな施策ですね。しかも「他社がしないことをする」「顧客=学生にサービスをする」という、採用の基本となる考え方をしっかり押さえています。

その通りです。常にこの2点を押さえて企画を練れば、どんな会社でも自社にピッタリの採用戦略を生み出すことができるはずです。ぜひ、工夫してみてください。

 

「中小企業や無名企業にも、必ず勝機はある。自分なりの流儀で成功する“無手勝流”採用とは(前編)」はこちら


関連記事

Interview

インタビュー記事一覧へ

Seminar

コンテンツがありません

セミナー一覧へ