言語統計の研究、海外事業経営・新規事業開発、ビジネスコンサルティング、「人の流れ」等に関するアルゴリズム解析等を経て、2019年11月荏原製作所に入社。研究部門でデータサイエンスを担当したのち、2020年5月にHR techプロジェクトを立上げ。2020年10月より現職。データ分析・アナリティクスの観点から採用戦略を立案・推進している。
Published on 2022/04/05
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三隅 光Hikaru Misumi
株式会社荏原製作所
グループ経営戦略人事統括部
HR techシニアデータサイエンティスト
言語統計の研究、海外事業経営・新規事業開発、ビジネスコンサルティング、「人の流れ」等に関するアルゴリズム解析等を経て、2019年11月荏原製作所に入社。研究部門でデータサイエンスを担当したのち、2020年5月にHR techプロジェクトを立上げ。2020年10月より現職。データ分析・アナリティクスの観点から採用戦略を立案・推進している。
西尾 舞Mai Nishio
株式会社荏原製作所
グループ経営戦略人事統括部
人材開発部 ダイバーシティリクルーティング課
2008年に入社以来、採用業務をメインに担当。現在は新卒採用チームのリーダーとして採用企画・運営を行う。HR techプロジェクトにも参画し、従来の採用手法とデジタルテクノロジーの融合を模索する。
1912年に創業された株式会社荏原製作所は、主力製品であるポンプをはじめ、送風機やコンプレッサ・タービン、半導体製造装置など、さまざまな分野でグローバル展開しています。とりわけポンプの分野では圧倒的な強みを持ち、「標準ポンプ」のシェアは国内1位を誇ります。そんな同社が採用において重視するのが「応募者とのマッチング」。「細分化された職種別採用」や応募者の資質に合わせた「職種提案型面接」を通じ、入社後の定着率向上を実現してきました。さらに2020年からは先端HRテクノロジーを駆使した「HR techプロジェクト」もスタート。人材の多様性確保に向けて始まった人材戦略改革について、データサイエンティストの三隅様と新卒採用リーダーの西尾様にお話を伺いました。
まずは改めて、貴社についてご紹介いただけますか。
西尾:
当社は1912年に、大学発のベンチャー企業として創業され、日本で初めてポンプを製造した会社です。その後、約110年にわたり日本の水インフラを支え、時代ごとの社会問題を解決し続けてきました。現在は世界各国に拠点を置き、送風機やコンプレッサ・タービン、半導体製造装置など、さまざまな分野でグローバル展開しています。
ポンプをはじめとする産業機械メーカーとして、世界トップクラスの実績があるわけですね。
西尾:
その通りです。しかし一方で事業を取り巻く環境はめまぐるしく変化しており、これからもグローバルメーカーとして成長を続けるためには、社員一人ひとりが変化を敏感にとらえ、多様性を尊重し合うことが必要です。これまで当社では、比較的堅実に仕事に取り組むタイプの社員が多かったのですが、時代の変化に対応するためには新製品・新事業の創出に取り組めるような挑戦心の強い人材も必要となってきます。これまでにいなかった新しいタイプの人材を採用するために、ここ数年、採用戦略の改革を進めています。
具体的にはどのような改革を行われているのですか?
三隅:
2020年に立ち上げた「HR techプロジェクト」が、その代表的な例です。その名の通り、先端的なHRテクノロジーを積極的に導入することで、当社の成長に必要となる多様な人材の採用を目指すものです。
なぜHRテクノロジーを導入することが、人材の多様性を高めることにつながるのでしょうか。
三隅:
従来の日本の採用では、人材の見極めを人事担当者の知識と経験に頼っていました。しかし人間の判断にはどうしても偏りがあります。人材要件に従って公平に採用しようと努めても、「自分が苦手なタイプの人」を採用するのは難しい。「自分に近いタイプの人」や「好きなタイプの人」ばかり採用した結果、会社に同質な社員が集まってしまいがちです。これでは多様性を確保することはできません。それに対し、高品質なシステムが客観的なデータに基づいて行う評価に偏見はないので、多様な人材を狙って取りやすくなります。
「人材の見極め」のために、具体的にはどのようなテクノロジーを活用されていますか?
三隅:
現状において最も注力しているのは、適性検査です。適性検査はエントリー時に全応募者に受けていただいており、学力テストだけではなく、さまざまな観点から性格を判断するパーソナリティテストも非常に重視しています。適性検査の目的は「ある数値が低い人を落とす」ことではなく、あくまで「特定のパーソナリティに偏ることなく、さまざまな個性を持った人材をまんべんなく採用すること」。そのため当社では複数の適性検査を組み合わせられるヒューマネージ社の「TG-WEB」を導入し、ベーシックパーソナリティに加え、成果を生み出す行動特性を示す「コンピテンシー」や、仕事を手づくりする力「ジョブ・クラフティング」も検査しています。
これらの合格基準はどのように定められているのですか?
三隅:
適性検査は当社の社員にもあらかじめ受けてもらっており、その結果を分析することで「今後の当社に必要な人物像(ペルソナ)」を設定し、数値化します。検査の結果だけでなく、学校での活動を含め総合的に見た後、最後にこの人物像に適合した方を合格にするという方針です。
非常に緻密な手法で適性検査を活用されているのですね。成果はいかがですか?
三隅:
適性検査は以前から導入していたのですが、このように細かい設定を始めたのはHR techプロジェクト発足以降です。弊社独自モデルを使ったうえでこの試験に合格した方の人物像を分析した結果、以前と比べて明らかに「挑戦的な人物」が多く選考に残っています。彼らが当社に入社してからどのような活躍を見せてくれるか、楽しみにしています。
適性検査以外で、応募者とのマッチングを図るために工夫されていることはありますか?
西尾:
当社はHR techプロジェクト発足以前から、応募者とのマッチングを非常に重視してきました。荏原製作所には「熱と誠」という創業精神があり、社員が情熱を持って仕事に打ち込むことを大切にしています。そのためには、各自がその特性に合った部署・職種に就くのが一番。そこで当社は「細分化された職種別採用」を行っており、応募者は自分の希望するコースを選んでエントリーすることができます。
応募職種はどのぐらい細分化されているのですか?
西尾:
2022採用では52コースにのぼる職種を設定しました。ただし多すぎると学生が自分に合った職種を見つけにくい、という側面も考え、2023採用では約40の職種に集約しています。
それでも他社と比べて多い印象です。「総合職採用」「技術職採用」というかたちで一括採用し、入社時に配属先を振り分ける企業が多い中、なぜ貴社ではそこまで職種を細分化されているのですか?
西尾:
入社前から自分が働くイメージを明確に持っていただくことで、当社に対する志望度と、入社後のモチベーションを向上する効果があると考えています。特に理系の学生は、自分が大学で学んだ研究内容を活かせる仕事に就きたいと考える方が多いですね。事実、数年前に職種別採用を開始して以来、内定承諾率も入社後の定着率も目に見えて高まりました。
職種別採用のほかに、何か工夫されていることはありますか?
西尾:
面接では、学生に対して職種提案を行うことがあります。職種別採用では自分の希望する職種を選べる反面、学生が自分の職種適性を正確に把握するのは簡単ではありません。例えば設計・開発職は人気が高くて応募数が多くなりがちですが、「設計志望の学生が実は生産技術のほうに向いていた」ということもあります。
どのようにして学生の最適な職種を見極め、提案されているのですか?
西尾:
職種に迷いがある学生に対して、まずは「なぜ現在、その職種を志望しているのか」という動機をしっかりヒアリングします。すると、その人が仕事において何を重視しているか――例えば「アイディアを活かして働くこと」や「ものづくりの現場で働くこと」などがわかってきます。そうした各自の志向を踏まえた上で、より個性を活かして仕事ができる職種を「もしよければこちらの職種はどうですか?」と提案しています。
そうした提案を受けた学生からの反応はいかがですか?
西尾:
「自分には○○職が向いていると思い込んでいたが、面接で視野が広がり、自分に本当に合った仕事に気づくことができた」といった声を耳にしています。学生のみなさんが幸せになる選択をサポートするため、面接での職種提案だけでなく、事業や働き方についてもしっかり理解いただけるよう、丁寧な説明を心掛けています。
HR techプロジェクトで先進的な手法を推進する一方で、「人」である採用ご担当者による丁寧な工夫もまた、貴社採用の精度を高めていることが伝わってきます。最後に、今後の採用に向けて挑戦してみたいことや抱負をお聞かせください。
三隅:
近い将来、人事領域全般に「ピープルアナリティクス」を導入したいと考えています。ピープルアナリティクスとは、企業に関わるさまざまなデータを分析し、データに基づいた客観的な課題解決を行う手法のことです。例えば現在の適性検査では、パーソナリティ判断を重視して人材の多様性向上を図っていますが、今後はこれをジョブ・スキル面にも応用したいと考えています。適性検査を「どの職種に向いているか」を判断するための材料としても活用できれば、「面接時の職種提案」もさらに精度が高まると思いますし、社員も納得いくキャリアパスを歩めるようになると考えています。企業と社員、双方が発展できるように、data-drivenな戦略とデータサイエンス、そして人事として貢献していきたいです。
西尾:
求める人材を見極めるプロセスは、三隅の尽力もあって、この2年である程度かたちができたと感じています。しかし、いくら人材を見極めることができても、そうした人材に当社のことを知ってもらえなければ出会うことはできません。今後は多くの学生に荏原製作所の魅力を伝えられるよう、広報活動にもHR techプロジェクトとともに積極的に取り組んでいきたいと考えています。
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