2000年、キヤノン株式会社に新卒入社。複合機事業の開発・生産拠点での人事・総務業務を経て、2003年、人事部で人事制度企画、労政関連業務に従事。2011年、オランダの物流統括拠点へ出向、イギリスのヨーロッパ販売統括会社へ異動し、企業風土改革事務局や域内出向政策等の業務を経験。2018年より採用課長として、新卒採用、キャリア採用および障害者採用を統括している。
Published on 2021/09/29
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橋本 大介Daisuke Hashimoto
キヤノン株式会社
人事部 グローバル要員管理部 採用課
課長
2000年、キヤノン株式会社に新卒入社。複合機事業の開発・生産拠点での人事・総務業務を経て、2003年、人事部で人事制度企画、労政関連業務に従事。2011年、オランダの物流統括拠点へ出向、イギリスのヨーロッパ販売統括会社へ異動し、企業風土改革事務局や域内出向政策等の業務を経験。2018年より採用課長として、新卒採用、キャリア採用および障害者採用を統括している。
キヤノン株式会社は「IMAGINGをAMAZINGに まだ見ぬ世界を切り開こう」というコーポレートコピーを掲げ、イメージング技術を軸としたビジネスを展開しています。近年は特にB to B領域に注力し、産業機器、オフィス、メディカル、イメージングシステムという4分野で世界的なシェアを獲得。2020年の売上は3兆1602億円、グループ全体の従業員数は全世界で18万人というグローバル企業です。そんな同社が採用戦略において重視するのが「マーケティング的視点」。学生を顧客としてとらえ、そのニーズに応えるためにユニークな施策を次々と打ち出しているといいます。選考を通じて「キヤノンファン」を増やす秘訣とは何か。採用課長を務める橋本大介様にお話を伺いしました。
橋本様は2000年の入社以来、国内外で幅広い人事業務に携わられていますね。採用活動には2018年から参加され今年で4年目ということですが、何か大切にされている採用モットーなどはありますか。
一言でいうと「顧客を見失わないこと」です。かつて経験してきた人事業務では「顧客=従業員」だったのが、採用課に異動してからは「顧客=学生」に変化しました。人事の世界ではある意味特殊な仕事と言えるかもしれませんが、顧客目線という意味では同じだとも思います。
採用活動はよくマーケティングにたとえられますが、「学生=顧客」という考え方はまさにマーケティング的と言えそうです。採用活動を通じて「キヤノンファン」を増やすため、2022年新卒採用ではどのような方針で施策を計画・実施されたのでしょうか。
学生のニーズを把握することを最も大切にしていました。そこで忘れてはならないのがジェネレーションギャップ。例えば私ぐらいの年代の社会人が、彼らの志向を理解するのは簡単ではありません。従来の考え方、手法で採用活動を行えば必ず陳腐化してしまいます。
学生のニーズを把握するために、どのような工夫をされているのですか?
内定者にはもちろん、内定を辞退した学生に対しても積極的にヒアリングをし、彼らが求めているものが何だったのか、我々に何が足りなかったのかといった情報を収集しています。自社の強みだけでなく、弱みを知ることが採用マーケティングにおいては重要だと考えています。
ヒアリングの結果、「自社の弱み」が判明し、それを施策の改善に活かした事例があれば教えてください。
内定者の話を聞いてみると、学生が求めているものと我々が提供しているものが、予想外に食い違っていたという場合があります。例えば夏のインターンシップでは、企業はどうしても自社の魅力をプッシュしてしまいがちですが、学生の側ではまだ「就活のやり方」から知りたがっている人が多い。企業からのアピールは少し後のフェーズに回し、インターンシップでは採用とは少し離れた視点でコミュニケーションをとるのが良いのではないか、と考えるようになりました。
それは大きな発見ですね。ちなみに、学生へのヒアリングのなかで感じた「最も大きなギャップ」は何でしたか?
わかりやすい例を挙げると、技術系の学生はインターンシップに対してオンラインではなく「対面での実施」を強く望んでいることがわかりました。やはり画面越しではなく、実際に機械に触れることができないと、彼らの知的好奇心を満たすことはできないようなのです。
その要求に応えるために、どのような施策を実施されたのですか?
機械のキットをご自宅に送り、オンラインでコミュニケーションをとりながらみんなで同じ物を作ってもらう、といった企画を実施しました。リアルな業務を体験できるという点で満足度の高い施策になったのではないかと感じています。
最近の学生には「どの会社に入るか」より「その会社で何をするか」を重視する傾向が強いと言われ、職種別採用を実施する企業も増えています。その点についてはいかがですか。
今は学生が企業を選ぶ時代ですし、彼らのやりたいことは昔より明確になっています。企業と学生とで相思相愛の構図をつくるためには、我々も彼らのニーズに応えていくことが必要でしょう。当社でも、少しずつ職種別採用やジョブマッチングを拡大しつつあります。
一方で、入社前の時点ではやりたいことがまだ固まっていない学生や、いろんなことをやってみたいという学生もいると思います。
もちろんその通りです。職種別採用と、入社後に配属先を決めるポテンシャル型採用は今後も併存していくことになるでしょう。これには学生のニーズという要因もありますが、専門領域の融合化・複合化が進んでいる事情もあります。例えば従来は情報系、機械系、電気系は別々の職種でしたが、今はそれらすべてを含む「ロボティクス」という分野がありますよね。さらにいえば、文系と理系の境目も徐々に曖昧になっています。私としては、若い人たちにはいろんな仕事を幅広く見て、自分の可能性を追求してほしいと思っています。ですから、最初にジョブマッチを行うとすれば、そのぶん入社後の部署・職種の流動性を高めておかなければなりません。職種別採用で入った部署が合わなかったとしても、ほかの仕事で再出発できる。そういう可能性を守ることが必要だと思います。
学生のニーズや可能性に目を向け、丁寧に対応されているという印象です。ところでマーケティングには顧客だけでなく、ライバル会社の動向をチェックすることが欠かせません。採用をマーケティングと捉える貴社では、この点についてどのようにお考えですか。
他社の採用動向については積極的に調査しています。私が採用課に異動してからの4年間、最も注力したことの一つと言えるかもしれません。数多ある企業のなかから当社を選んでもらうためには、他社のしていない施策、学生にとって目新しい施策をいち早く取り入れていく必要があると思います。
他社がしていない新企画として、例えばどのような施策を実施されましたか?
今年の2022年新卒採用では、オンラインセミナーで「エントリーシートの書き方講座」を実施しました。約200人の学生の前で、私がエントリーシートの書き方を指導するという内容です。この設問に対しては、このようなポイントを意識して書きましょう、と実例を示したり、インタラクティブに質問に答えたり。自社の採用の手の内を明かすことにはなりますが、彼らにとって有益な情報となるならそれでいいかな、と。実際、評判は非常に良かったです。
まさに学生のニーズを最優先にした施策ですね。採用活動においては採用管理システムなどに蓄積された過去のデータの分析も重要といわれます。過去のデータを活かした取り組みとしてはどのようなことを実践されていますか?
膨大な過去のデータは非常に貴重な情報であり、我々も分析には相当注力しています。たとえば入社後にハイパフォーマンスを発揮している人材の傾向を分析して人材要件を考え、それに基づいた面接をおこなうといったことですね。これにより、面接における「人が人を見る不確実性」をある程度軽減できると考えています。その反面、データで制御できない不確実性もある程度は必要だと考えています。
それはなぜでしょうか。
最終面接では役員クラスの社員が「どのような人材を採用したいか」を判断するわけですが、そこでは彼らが歩んできた会社人生や彼らの立場など、さまざまな複雑な要素が反映されます。その不確実な領域を残しておきたい、というのが私の考えです。企業の将来を決する人材を選ぶことは最終面接官、つまり企業経営者の役割だと思いますし、データに基づかない不確実性を残すことが、結果的に人材の多様性を生むことになるからです。
2022シーズンも昨年に引き続きコロナ禍と重なりましたが、2年目となったオンライン施策はどのように展開されましたか。
採用活動が突然オンラインに切り替わるということは、革命と言えるほど大きな変化でした。しかし、オンライン化によるメリットがたくさんあったのも事実です。最も大きなメリットは時間と場所が関係なくなったこと。たとえば昨年は200回のオンライン番組をリアルタイム配信し、全都道府県+海外20か国、総計8000人の学生とコンタクトをとることができました。どれだけ採用につながったかは別としても、これだけのアプローチができたのは画期的でしたし、今後もオンライン施策はスタンダードなものになると思います。
8000人というのはすごい人数ですね。しかし、オンラインイベントは学生にとって気軽に参加しやすい分、選んでもらうためには独自性を打ち出す必要があるのではないでしょうか。
「他社がしていないユニークなこと」をやろう、という意識は強く持っていましたね。リアルなセミナーでは途中で退出する学生はほとんどいませんが、オンラインイベントは退屈だと感じた瞬間簡単に離脱できてしまう。視聴率を上げ、離脱者を減らすためには、それこそマーケティング的な視点が欠かせません。反響が悪かった番組は原因を徹底的に分析し、改善することを繰り返しました。イベントのオンライン化は参加の垣根が低くなったといわれますが、学生との接点づくりという意味での「真剣勝負度」はむしろ高まったと実感しています。
2023シーズンに向けては、どのような取り組みをしていきたいとお考えですか。
新型コロナウイルスの流行状況にかかわらず、オンライン採用はスタンダードになっていくと思います。そこでキーとなるのは、オンラインと対面のハイブリッドを、いかに学生目線で組み上げていくか。オンラインのメリットを最大限に活かすためには、学生のニーズをくみ取りつつ、どの時期にどのカードを切っていくかが勝負になってくると思います。
お話を伺っていると、貴社は学生のニーズに応えるため、次々と新しい施策を実行しているという印象を受けます。そのスピード感の秘訣は何なのでしょうか。
4年間採用の仕事を続けてきてわかったことが二つあります。一つは、採用の仕事に「やってはいけないこと」はほとんどなく、新しいチャレンジの余地がいくらでもあるということ。そしてもう一つは、採用業界においては若い人材ほど「豊富なアイディア」という付加価値を持っているということです。当社の採用チームでも、若手メンバーの意見を速やかに取り入れることを大事にしています。
最後に、今後の中長期的な採用ビジョンについてお聞かせください。
採用活動は、当社のマーケティングにおいて重要な部分を担っていると思います。私自身もそうだったのですが、就職活動で印象が良かった会社のことはその後も長く記憶に残るもの。学生にとって満足度の高い採用活動は、ご縁の有無にかかわらず、長期的にキヤノンファンを増やすことにつながると信じています。これからも「学生=顧客」の視点を忘れることなく、丁寧な採用を続けていきたいと考えています。
Special Feature 01
人材データを蓄積し、その後の採用可能性につなげていく「タレントプール」。
新たな採用手法の実現方法を紐解きます。
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