採用、教育、組織構築などの人的側面から企業経営を支援する人事コンサルティングファーム・株式会社セイルの人事コンサルタントとして、さまざまな規模・業界の経営を支援。内定者フォローは17年間で200案件以上を担当する。
藤原 誠Makoto Fujiwara
株式会社セイル
代表取締役
採用、教育、組織構築などの人的側面から企業経営を支援する人事コンサルティングファーム・株式会社セイルの人事コンサルタントとして、さまざまな規模・業界の経営を支援。内定者フォローは17年間で200案件以上を担当する。
コロナ禍における内定者フォローは、最適化に向けてその目的や内容を変化させています。戦略の立案から全体のプランニング、コンテンツの提供に至るまで、内定者フォローに関わる幅広いコンサルティングを行う株式会社セイルの藤原 誠氏に、コロナ時代の内定者フォローの事例と在り方を伺いました。
内定者フォローについて、各社が共通して抱えている課題はありますか?
採用活動が早期化した結果、実質的な内定者フォロー期間が長期化しており、この事は多かれ少なかれ各社に影響を与えています。適切な頻度で接触機会を設けて企業と内定者の信頼関係を育てていく事が重要となりますが、タッチポイントを増やすことで業務過多となり、内定者との個別のコミュニケーションになかなか時間を割けない、というジレンマに悩んでいるケースも多くあるようです。さらにはコロナ禍で対面での接触が難しいという制約が重なってしまい、各社試行錯誤しながら内定者フォローに取り組んでいる状況だと感じます。
やはり、コロナによる影響は大きいのですね。
選考から内定までの過程の大半がオンラインになってしまったことで、対面ならできていたことができていない現状はあると思います。ただ、この状況も3年目を迎えるので、企画する人事ご担当者の意識はコロナ前との比較ではなく「オンラインを前提として何ができるか」と前進してきているように感じます。
一方、現場で運営に携わる採用ご担当者は相当苦労されていますよね。内定者フォローに限った話ではありませんが、多くの企業は完全なオンラインではなく、可能な限り対面によるタッチポイントを盛り込んだ「ハイブリッド型」の採用活動を進めています。しかし、コロナの状況が刻々と変化するため、対面形式のイベントが実施可能かどうかを直前まで見通せない状況が生じてしまっています。直前で実行が難しくなった場合は臨機応変な対応が求められることはもちろん、イベント以外で追加フォロー施策を打つ重要性も高まっています。
現在の内定者フォローにおけるオンラインと対面の割合はどのくらいなのでしょうか。
私のクライアントでは半々といったところでしょうか。企業ごとにオンライン・オフラインが分かれるのではなく、例えば「内定者同士の顔合わせは対面で、その後、チームごとに取り組むプロジェクト課題はオンラインで」というように、オンラインとオフラインを使い分ける企業が多くなっています。
コロナ禍によって、内定者フォローの内容にも変化が生まれていると思います。具体的にどのような点に変化を感じていらっしゃいますか?
まず内容についてお話する前に、内定者フォローにおける目的そのものが変化しているように思います。コロナ前は、「自社に対する志望度を上げたい」「内定承諾をしてほしい」といったように、いかに内定辞退されないか/確実に入社に結びつけるかがポイントでした。しかしコロナ以降、「入社前に主体性を上げておきたい」という目的を内定者フォローに加える企業が増えました。これには2つ理由があります。
1つ目は企業経営においてコロナ前の常識が通用しない事が多くなったため、新人の発想力をより生かしていきたいという前向きな理由です。2つ目はリモートワーク普及により新入社員が在宅勤務しながら自分一人で思考し判断することが求められるようになったためです。多くの企業で2020年以降の新入社員が「先輩社員に質問しにくい、誰に聞けばいいか分からない」といった課題を抱え、メンタル不調や離職につながるケースもありました。企業側もさまざまな対応をしてはいますが、新入社員側にも自ら問題解決できる力が求められているため、内定者フォローにも変化が生じています。
目的が変化する中で、留意すべき点はどのようなところでしょうか。
内定者フォローで行うべきことは、「納得感を上げる」「不安感を下げる」という2つに集約されます。そして、内定者の感情をコントロールすることはできませんが、情報を提供して理解を深めさせることはできます。深めるべきは「会社」「仕事」「同期」「自分」という4要素についての理解ですが、その手前で内定者は何を理解できていなくて、何を知りたがっているのかを把握することも重要です。コロナ前は面談などを通じて理解度を確認することができましたが、今はそれだけでは足りないという現実があります。
そこで私は、一人の学生に対して複数の人が接点を築くことを推奨しています。もちろん一対一の密な信頼関係を築くことも重要ですが、人間とは多面的であり、全ての面を一人の採用担当者に見せてくれるとは限りません。さまざまな人と接する中で何気なく漏れた言葉こそが本音だったりすることもありますよね。このような理由から、ニーズを知る段階では1人の内定者に対し3~4人程度で接点を持つのが望ましいと考えています。
個別のフォローも、多面的なアプローチが必要なのですね。内定者に向けたイベントや研修の運営についてもお伺いできますか?
内定期間中には複数イベントがあると思いますが流れの一例として、参加しやすい「楽しむ企画」から始まり、就業体験や現場見学などの「学ぶ企画」、その後にパネルディスカッションや座談会といった「社員イベント」、内定者同士で自由に連絡を取り合って遂行する「プロジェクト課題」……と続いていくパターンが挙げられます。
全体設計の中で気をつけたいのは、個人によって企業に対する理解度に差がある初期段階でいきなり内定者同士を自由に交流させると、「この人は自分よりやる気がない」「会社のことをあまりわかっていない」というように、理解度の高い人が低い人から悪い影響を受けてしまうケースがある、ということです。最初はある程度企業が内定者をコントロールできる状況下(グループ分けを決めておく、テーマに沿って話をさせる、社員がグループにひとり参加する、など)で内定者同士が打ち解け合うことを促し、理解が深まってから自由にコミュニケーションできる環境を提供するのが良いでしょう。
内定者フォローにおける昨今のトレンドはありますか。
トレンドの背景として、大企業を中心にジョブ型採用が浸透してきていることがあります。内定の段階から入社後に何をするのかが明確なため、職種ごとに体験させたり、考えさせたりする内容が異なってきます。その場合、まずは自身の職種に対する理解を深めた上で、他の職種との相関性や横のつながりをつくる機会を設けることで、将来的にシナジーを生み出す土台を築くことが可能です。
ここでも「入社後を見据えた視点」が重要になってくるのですね。
そうですね。そのためには、内定者だけではなく社員の声を拾うことも大切です。例えば、前年入社の社員にアンケートやインタビューを行ってみるのも良いと思います。その際に、「何が不安だったか」を聞くことも大事なのですが、「その不安はどのタイミングで、誰に、どのように解決してもらったか」の方にこそヒントがあるかもしれません。その結果、実は「肝心の経営理念について熱意を持って説明した人が誰もいなかった」など、次年度で改善すべき問題が見えてくることもあります。
そのような問題はなぜ起こってしまい、どのように防げばよいのでしょうか。
情報伝達においては「漏れなく、ダブりなく」といういわゆる“MECE”の考え方が重要ですが、採用活動全体における情報提供フローがMECEで設計されていないことが原因だと思います。会社側はわかっていると思って話しているけれど、内定者はよく理解できないまま先に進んでいくような状況ですね。逆に、同じ情報を何度も伝えてしまうことも多くあり、関係者が増えるほど発生してしまいがちです。このような状況を防ぐためには、採用管理システムなどのツールを活用し、「何を提供してきたか」「漏れはないか」というセルフチェックができる仕組みを整えるべきだと感じます。
実際に御社が携わった中で、特徴的な施策事例があればご紹介いただけますか。
ある建材メーカーでは、「入社までにやりたいこと」の計画を立ててもらう企画を行いました。このとき、やりたいことを実現可能性の高低や重要度、要する費用や時間に分けて考えることで、建設的な思考を培い、主体性向上にもつながります。この施策のメリットは、企業側は内定者ごとの入社までのスケジュールを把握できるので、フォロータイミングの参考にできるのはもちろん、彼らの趣味嗜好を知ることで、より人となりを理解することができる点です。他方、内定者は残りの学生期間を思いっきり楽しむことを促してくれる企業に対して信頼の気持ちを抱いてくれたり、学生時代を謳歌できたという感覚が入社に向けた切り替えに良い影響を与えたりと、双方に利点が多い企画だと感じます。
また、ある金融機関では「存在意義発見プログラム」という施策を実施しています。これは、事業に関係するステークホルダーを内定者が自ら洗い出し、多くのステークホルダーの存在を実感することで、企業と自分の存在意義を確認するというものです。計5回と継続した接点を設計することで同期との連帯感を醸成するほか、仕事に対する責任感を養うことを目的としています。
ちなみに、コロナ前後の変化として一つ興味深いのは、目標設定系イベントの満足度が経年比較で上がっている事です。先行きが見通しにくい時代だからこそ、人生の方向性を定めたい欲求が内定者の中で高まっていると感じています。
「これまでの自分」を肯定してもらいつつも、「未来の働く自分」を想像できるプログラムがポイントなのだと感じました。最後に、人事担当者様に向けてメッセージをお願いします。
コロナによって内定者フォローの在り方は大きく変わりました。しかし、先ほども申し上げたように、あえてコロナ前と比較して悲観する必要はないと思います。今の学生はコロナのせいで多くを失った、と考えるだけではなく、目の前にある状況の中で彼らなりに精一杯楽しみを見つけ、人生を全く新しいかたちで切り拓いているんだということを認めてあげましょう。だからこそ、彼らの声に耳を傾けた上で、できることを考えてあげて下さい。
リモートワークがこれだけ急速に普及したように、これからの働き方はさらに変わってくるでしょう。これまでの考え方や環境に合わせた施策に固執せず、これからの会社の在り方や働き方を想像し、そこから逆算して今何をすべきか考える——そのような視点で内定者フォローに取り組んでいただければ嬉しく思います。
ーVIEW 2761
Special Feature 01
人材データを蓄積し、その後の採用可能性につなげていく「タレントプール」。
新たな採用手法の実現方法を紐解きます。
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