大学を卒業後に東レ株式会社へ入社、人事労務担当者として、工場、本社で勤務したのち、2017年より人事部人事採用課の課長、現在に至る。
中島 究Kiwamu Nakajima
東レ株式会社
人事部 人事採用課長
大学を卒業後に東レ株式会社へ入社、人事労務担当者として、工場、本社で勤務したのち、2017年より人事部人事採用課の課長、現在に至る。
東レ株式会社は、言わずと知れた日本を代表する総合素材メーカーです。ファーストリテイリング社との共同開発による「ヒートテック」や航空機の構造材に使用される炭素繊維複合材料など、社会に大きなインパクトを与える素材を次々と生み出しています。高い技術力と知名度を誇り、メーカー志望の学生から熱い注目を集める同社ですが、意外にも「採用における強みは技術でもブランドでもなく、社員です」と断言するのは人事採用課長 中島究様。インタビューを通して見えてきたのは、「現場の声」を徹底的に尊重し、「学生と現場社員のマッチング」にこだわり抜く、モノづくり企業ならではの採用戦略でした。
貴社は「素材には、社会を変える力がある。」という考えのもと、繊維をはじめとした多様な素材を開発していらっしゃいます。こうした企業理念や事業内容に基づき、どのような採用方針をとっているのでしょうか。
私たちの採用における基本的な考え方は、「現場で働いている人たちが“こういう人と一緒に働きたい”と思う人を採用する」というものです。シンプルですが、これに尽きると思います。
徹底した「現場中心」の採用を行われているのですね。
当社は総合素材メーカーとして繊維、機能化成品、炭素繊維複合材料、環境エンジニアリング、ライフサイエンスなど非常に幅広い分野の素材を開発・製造しており、しかも分社化をしていません。同じ会社の中に様々な組織があり、多様な人材が活躍し、シナジーを生み出せることが当社の強みです。当然、部門によって価値観も求める人物像も全く違います。それを無理にまとめることはできません。各部署が求める、いろいろな人材を集めることが、当社の採用における「成功」だと考えています。
「現場が求める人材」を採用するために、具体的にどのような工夫をされていますか?
選考フローの中で現場社員が学生と会う機会を増やすことです。面接とは別に面談会や座談会を複数回開き、学生と現場社員の接点を作る。そして、学生に会った社員の声を選考に反映する。これは、私が入社した当時から続く東レの伝統です。
社員と学生の接点づくりにおいて、どのような点を大切にされていますか。
まずは、社員と学生とが1対1でじっくり話せる機会を作ることです。とにかく、学生が聞きたいことを何でも聞ける、という場を用意するためです。
すばらしいことですが、そのためにはかなりたくさんの社員を動員する必要があるのではないでしょうか。
もちろん面談はある程度選考プロセスを経てから行うので、すべての学生と社員を引き合わせられるわけではありません。それでも、毎年多くの現場社員に面談に参加してもらっています。
しかし本当に重要なのは学生と話す社員の「人数」ではなく、「マッチング」だと考えています。どの学生にどの社員を会わせるか。これが採用の成否を決めるといっても過言ではありません。
面談を行う社員の人選はどのように行われるのですか?
その学生が大学でどのような勉強をしていて、どんな志向があって、どんな仕事に関心を持っているか。そうした情報を総合し、学生に最も有益な話ができる社員を探してアサインしています。
人選はかなり大変なのではないでしょうか。
そうですね。基本的にこの人選は採用チームのメンバーに任せているのですが、「なぜこの人選をしたのか」ということを問いかけています。充分なマッチングが図れないと判断した場合には人選をやり直すこともあります。それほど面談のマッチングは重要だからです。事実、当社に入社を決めてくれた方の多くが、入社の理由を「面談で会った○○さんの話に惹かれたから」と答えています。
それだけ、貴社の人材が魅力的だということですね。
手前味噌ですが、そう思います。採用競争においては待遇や仕事内容など様々な要素がありますが、東レの最大の武器は「人」だと考えています。仕事に情熱を持って取り組み、お客様と社会に貢献し続けている社員の人柄に、私たちは心から自信を持っている。その彼らが「一緒に働きたい」と思う学生なら、採用して間違いないわけです。
2022年卒採用に向けては、どのような施策や選考手法を予定されていますか?
やはり課題となるのは、新型コロナウイルスへの対処ですね。安全・環境・防災を重んじる企業として、感染リスクが広がるようなイベント形態は選択せず、安全を第一に採用活動を行いたいと考えています。秋から冬にかけてインターンシップを実施しますが、これもオンラインで行っています。
オンラインインターンシップで行われた工夫などがあれば、お聞かせいただけますか。
オンライン環境下でも、しっかり社員の魅力を伝えることに主眼を置き、現場社員に30分程度じっくり話してもらい、学生からの質問に応じるという形式にしています。もちろん面談と同様、人選は妥協せずに行いましたし、「とにかくリアルな現場の話をしてほしい」と社員には念を押してお願いしました。
学生からの反響はいかがでしたか?
質問数も相当数にのぼり、かなり盛り上がったと感じています。やはり社員の話が好評でしたね。一般に先輩社員のトークではサクセスストーリーが語られがちですが、実際の現場では最後まで報われない失敗が山のようにあります。頑張ったけどうまくいかなくて、損失が出たり、上司に怒られることもある。インターンシップでは、そういうリアルな失敗談も語ってもらっています。
RJP(Realistic Job Preview=現実的な仕事情報の事前開示)手法を上手く取り入れているのですね。
はい。どんな仕事もそうですが、お金をもらって働く以上、辛いことや壁にぶつかることは必ずありますし、そこにやりがいを見いだせる人でなければ長続きしません。だから、あえて仕事の「負」の部分も誠実に見せる必要があると考えたのです。学生の側にも、仕事のリアルを知りたいという思いがあったからでしょうか、失敗談に興味を持ってくれた学生も多かったようです。我々が採用において最重視する「マッチング」には、欠かせない要素だと考えています。
現時点で、採用活動における課題と感じられていることや、今後の採用活動への展望をお聞かせください。
最近はAIやビッグデータなどのHRテクノロジーが注目されていますが、私個人としてはこれらの先端技術に飛びつく前に、人事として取り組むべき仕事があると感じています。それは「過去を振り返ること」です。採用活動には失敗もあります。残念ながら、ミスマッチもあり、退職してしまう社員もいる。そうした過去を振り返るのは辛いことです。しかし、失敗の山は、宝の山でもあります。選考時に得た、適性検査や面接のデータと、入社後の社員の活躍度とを組み合わせて分析すれば、よりマッチング精度の高い採用ができるはずだと私は考えています。しかし、今はまだこうした有益な情報が埋もれ、整理されていません。こうした情報を活用する方法を、今考えているところです。
最後に、中島様にとって「理想の採用」とはどういうものか、教えてください。
東レに入社した社員全員が、東レを離れる際「この会社を選んでよかった」と思ってくれる。そういう採用を実現することです。現実的には難しいかも知れませんが、少なくともそれぐらいの覚悟を持ってマッチングを目指し、学生への説明責任を果たすことが、私たちの使命だと考えています。採用市場がどれだけ変化しても、この想いだけはずっと変わらないと思います。
Special Feature 01
人材データを蓄積し、その後の採用可能性につなげていく「タレントプール」。
新たな採用手法の実現方法を紐解きます。
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