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自社の採用成果につながるRJPのポイント
自社の組織や仕事について、ネガティブな情報も含めて応募者に伝えるRJP(Realistic Job Preview)。ミスマッチによる早期離職を防ぐ施策として、日本では2000年頃から注目され、いまでは広く知られています。しかし、RJPとは情報をただ伝えればいいだけではなく、企業の知名度、業態、母集団の規模などに合わせ、個別に設計することが大切です。今回は、自社の採用でRJPをどう実践するか?、「自社の採用成果につながるRJP」について考えます。
RJPとは
RJP(Realistic Job Preview)とは、企業が採用活動をおこなう際に、組織や仕事の実態について、よい面だけでなく悪い面も含めたリアルな情報を提供することを指します。正直な情報を開示することで、求職者が抱くイメージと企業の実態のミスマッチを減らし、結果的に採用後の定着率を高める効果が確認されています。1970年代にRJPを提唱したアメリカの産業心理学者ジョン・ワナウスによると、RJPには主に3つの効果があるといわれています。
- セルフスクリーニング効果
求職者が正確かつ十分な情報を得ることで、自分と企業のマッチングを判断することを助ける効果。その仕事に本当に向いているか?を自身で改めて考えることで、入社後、ミスマッチで会社を辞める人材の応募が抑制される。
- ワクチン効果
事前にネガティブな情報を伝えることで、企業や仕事に対する過剰な期待を事前に緩和し、入社後の失望・幻滅を和らげる効果(予防接種のイメージ)。入社後に現実と理想のギャップから離職するのを防ぐ。
- コミットメント効果
マッチング度合いの低い人材は離れていく一方(セルフスクリーニング)、マッチング度合いの高い人材は、困難を承知でその仕事をやり遂げたいという欲求が強まる。また、RJPを通じて企業の誠実さを感じ、組織に対する愛着や帰属意識が高まる効果
RJPの実践事例として、大手食品メーカーのA社は、消費者向けの商品、ブランドのイメージが強く、A社の仕事=商品企画など、華やかな印象を持たれがちという課題がありました。正しい企業理解、仕事理解を促進するため、A社では、応募者のみが閲覧できるマイページコンテンツで、営業職の仕事(例:担当店舗を回った際の店長とのやり取り)や実際に起こったトラブルについて、社員が赤裸々に話す動画を公開しています。また、選考中に「社員訪問会」という応募者と社員の直接の接点をつくり、その際に社員から「マイページの動画みた?わからないところとか質問はある?」と促し、社員から直接リアルな話をする機会としています(その際、社員には「仕事について包み隠さず語ってください」と伝えているそう)。担当者の方いわく、エントリー~選考を通じて、継続的にRJPの機会を設けているとのことでした。
また、BtoB向けの事業を展開するB社では、説明会やインターンシップでネガティブな情報も伝えると同時に、希望者向けに内定者インターンを実施し、実際の仕事を体験することでわかる実態を伝えています。「実際の仕事内容が外からは見えにくいからこそ、仕事におけるつらい面も理解した上で入社してほしい」という意図を率直に伝えることで、信頼関係を構築する手立てにしているとのことでした。
以前の採用活動では、企業は学生に良い面ばかりを伝えてとにかく多く応募者を集め、そこから選ぶというやり方がとられてきました。一方、RJPを実践している採用活動では、マッチング度合いの高い応募者のみが集まり、選考に進むため、母集団の減少や選考辞退の一時的な増加はあっても、最終的な採用成果は高くなると言われています。「社員が定着するかどうか/長く働けるかどうか」という点が企業/求職者の双方で重要視される現在、改めて、RJPは理にかなった採用手法であるといえます。
RJPを実践する際、気をつけたいポイント
RJPを実践する際には、気をつけたいポイントがいくつかあります。「よい面だけでなく悪い面も含めたリアルな情報を提供する」ことを文字通りそのままおこなうことにより、思わぬ誤解や認識の齟齬が生まれ、自社の等身大が伝わらなくなるのを防ぐためです。
まず念頭に置いておきたいのは、「誰が」「どのように」情報を伝えるかによって、たとえ同じ内容であっても大きく印象が変わる可能性がある、ということです。たとえば、その業務を実際に経験したことがない採用担当者が「こんな泥くさい仕事もある」「華々しいイメージとほど遠い仕事だ」という事実だけを述べるのと、その業務を実際におこなった経験がある社員が感情面も含めて伝えるのとでは、温度感が異なります。「その業務が現在の仕事にこうつながっている」、「あの時はこう感じていたけれど、いま思い返すとこう思う」など、幅を持たせた語り方によって受け手の印象は変わってくるでしょう。また、ネガティブな情報のあとにポジティブな情報もセットで伝える、という点も、あとから思い返したときにどのように感じてもらいたいか、という観点から重要だと考えられます。
さらに、受け手の企業理解度/志望度により、伝える内容を変えることも必要です。就職活動を始めたばかりの夏季インターンシップや初回のオープンセミナーの場で、まだ企業理解が浅く、志望の意思を検討する段階の応募者に対して仕事の大変さばかり強調してしまっては、それ以降に興味関心を増していく可能性を摘んでしまうことになりかねません。一回のみの情報提供で終わらせるのではなく、採用活動の一連の流れのなかで、受け手の理解度合いに合わせて複数回にわたって伝え続ける、ということを意識し、最適な時期を考慮したRJPの設計を心がけることが重要です。
先述の事例にもあったように、母集団規模が大きな企業では、採用活動のはじめの段階からRJPのコミュニケーションを一貫しておこなうことで、自社への志望度が高い応募者のみを集めることができ、採用コストの削減につながることもあります。一方、母集団形成も課題のひとつという企業では、まず接点を持ち、応募者がポジティブな印象を抱いたあと、会社や仕事を深く知ってもらう過程で段階的なRJPをおこなっているケースもあります。いずれにしろ、一連の採用活動のなかで情報を提供し、応募者の充分な検討と自己決定の機会を与えることで、最終的な採用成果=自社で活躍する人材の採用につながると考えられます。
まとめ
SNSや企業の口コミサイト、掲示板が普及し、ネガティブな情報(真偽を問わない)の流布が避けられない時代。RJPはそれらに対する公式の回答として、自社の“ありのまま”の情報を正しく伝えるための手段ともいえます。改めて、それぞれの企業にあったRJPを実践することが、採用成果を左右するカギのひとつといえるのではないでしょうか。
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