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Interview

新たな理念と「MISI FRONTIER SPIRITS」の誕生。
アイデンティティの言語化は採用をどう変えたか

Published on 2023/02/17

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Profile

野村 容Yo Nomura

伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社
人事総務部長代行
兼)人事企画チーム長/兼)採用・ダイバーシティ推進チーム長

1994年、丸紅に入社。11年間法務部に所属し、伊藤忠商事と丸紅の鉄鋼部門分割統合に伴う法務業務にも携わる。その後経営企画部、広報部を経てバンコクへ駐在、丸紅のASEAN広報としてASEAN/インドを飛び回る。2014年帰国し、採用課長。2016年は採用・人材開発課長として採用・研修関連業務を統括。2017年より伊藤忠丸紅鉄鋼に出向して3年間人事を担当した後、丸紅に帰任。2022年4月より現職。採用を含む人事総務全般のマネジメントと同時に、ダイバーシティの推進にも尽力する。

松田 涼夏Suzuka Matsuda

伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社
採用・ダイバーシティ推進チーム

2020年、伊藤忠丸紅鉄鋼に新卒入社。1年目は主に採用を担当し、2年目からは採用・ダイバーシティ推進チームの設置に伴い、採用と共にダイバーシティ推進(特に女性活躍推進)にも注力している。

伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社(以下、MISI)は、2001年に伊藤忠商事の鉄鋼部門と丸紅の鉄鋼製品部門が分社、統合し誕生した「鉄鋼総合商社」です。そんな同社が2021年に企業理念体系の一部として掲げたのが「MISI FRONTIER SPIRITS」。採用活動においてもこのMISI FRONTIER SPIRITSを軸に広報や選考を展開し、自社に共感してくれる人材の発掘に効果を発揮していると言います。MISIの歴史と今、そして未来に向けた人材戦略について、人事総務部長代行・野村様と採用・ダイバーシティ推進チームの松田様に、お話いただきました。

総合商社同士の事業統合から生まれた「MISI」

貴社は伊藤忠商事と丸紅の分社・統合により誕生した鉄鋼総合商社ですね。まずは改めて設立の経緯についてご紹介いただけますか。

野村:
おっしゃる通り、当社は2001年10月に伊藤忠商事の鉄鋼部門と丸紅の鉄鋼製品部門が分社、統合して誕生した鉄鋼総合商社です。設立当時はバブル崩壊後の不況に加え、90年代後半に始まったアジア通貨危機の影響も受け、総合商社各社にとって非常に厳しい時代でした。とりわけ鉄鋼部門は厳しい経営状況に置かれており、丸紅でも、鉄鋼部門をどうするかという議論がなされていました。しかし、鉄鋼というのは自動車、建設、機械、電子機器、エネルギーなどあらゆる産業分野を支える産業のコメ。鉄鋼をやめたら総合商社の看板を下ろさなければならない。当時の経営陣は相当色々悩み抜いたと思います。結果、ライバル同士である丸紅と伊藤忠商事の鉄鋼部門同士を分社・統合するという決断が下されました。

大手総合商社同士の事業統合というのは、かなり大胆な決断だったのではないでしょうか。

野村:
はい。しかしこれにより、MISIは圧倒的なビジネス規模とシナジー効果を生み出すことに成功しました。ちなみに、私は当時丸紅の法務部に所属しており、この統合に伴う法務業務に携わらせていただきました。鉄鋼部門の先輩と飲みに行った折には、分社化してしまったことを責められるのではないかと覚悟していたのですが、思いがけず「ありがとう」とお礼を言われたものですから、感極まり号泣してしまったのを覚えています。

非常に苦しい状況からのスタートだったのですね。分社・統合による成果についてお聞かせください。

野村:
設立後、伊藤忠商事と丸紅の鉄鋼部門の社員はMISIに転籍したわけですが、一丸となって頑張ったことと、中国の鉄鋼需要が急増したことも追い風となって、結果としては最初の中期経営計画で3年後の2004年に目標としていた純利益100億円の倍にも迫る195億円の利益を出すことができました。その後も、総合商社のビジネスモデルがトレードビジネスから「事業投資・事業経営」へと広がっていくのに伴い、売上・利益共に成長しました。2021年度の連結純利益は626億円ですから、手前味噌ですが20年でよくここまで伸びたと思います。

MISI FRONTIER SPIRITSに基づく、理念重視型採用

丸紅・伊藤忠商事というライバル同士が結びついたことで、目標通り強力なシナジーを生み出すことができたわけですね。2021年には「MISI FRONTIER SPIRITS」を策定されていますが、ここにはどのような背景があるのでしょうか。

松田:
設立当初、MISIは伊藤忠商事と丸紅の社員で構成されていたため、MISIならではの社風やアイデンティティといったものが明確ではなかったのかもしれません。しかし設立して20年間も経つと、自ずと両株主会社とは異なるMISI固有のアイデンティティが確立されてきます。いわば企業としての「成人」を遂げたともいえるかもしれませんね。そんな節目を迎える中で、MISIとしてのアイデンティティを強め、より高みを目指していくため、全社員が一体となって企業理念体系を一新しました。そして、新企業理念体系の中で、MISIのアイデンティティが言語化されたものが、7つのMISI FRONTIER SPIRITSです。MISI FRONTIER SPIRITSの策定に当たっては全社の社員からアンケートやインタビューを通じて「これまで経験したビジネスのなかでどのようにして困難を乗り越えてきたか」といった話を聞き集め、テキストマイニングに落とし込みました。その結果、「探求」「当事者として」「挑む」「先手」「自由闊達」「個の尊重」「やり抜く」という7つのスピリッツがMISI FRONTIER SPIRITSとなったのです。

全社を巻き込んで策定したものだけに、社員の皆さんにとってもMISI FRONTIER SPIRITSは納得感のあるものだったのではないでしょうか。

松田:
はい、多くの社員が共感を示してくれていますし、私自身も気に入っています。個人的には特に「自由闊達」という言葉がMISIらしいと感じますね。例えば私の場合、入社2年目で社長にプレゼンをする機会もありましたし、その後も経営陣と話す機会は常にあります。今年は、4半期に一度は新卒や女性活躍推進の話題で経営陣と話をしていますね。

野村:
風通しの良さは確かにMISIならではの社風だと思います。設立当初は別々の会社の出身者が集まってできた会社ですから、あえて言わずとも伝わるという「ツーカー」の関係が通用しなかった。社員同士で丁寧なコミュニケーションが必須だったがゆえに、丸紅や伊藤忠商事とも異なる風通しの良さが生まれたのではないでしょうか。

まさにMISI FRONTIER SPIRITS は貴社のアイデンティティであるわけですね。採用においてはどのように活用されているのですか?

松田:
採用でもMISI FRONTIER SPIRITSを前面に打ち出し、このスピリッツに共感いただける学生さんであれば、MISIで生き生きと活躍頂けると思っています。7つのSPIRITSにはMISIの社風がぎゅっと凝縮されて言語化されたものですので、当社の特徴をとらえて頂くうえで非常に役立っていると思います。

学生からの反響はいかがですか?

松田:
MISI FRONTIER SPIRITSによって、「鉄鋼商社というと堅苦しく厳しいイメージがあった。こんなにMISIが自由で柔らかい雰囲気の会社だとは思わなかった」と驚かれる方が多いですね。実際、MISIは穏やかな人が多く、いわゆる体育会系の堅い会社ではありません。実際の社員に会う前に、会社の雰囲気を伝えることができるのは、その後の採用活動にも効果的だと感じています。

その他には、MISI FRONTIER SPIRITSをどのように活用していますか。

松田:
学生さんそれぞれの個性を知るという際に、MISI FRONTIER SPIRITSに落とし込んだ施策を行っています。具体的には、エントリーシートに「7つのスピリッツのうち、自分が一番共感する価値観について書く」という欄を設けました。興味深いことに皆さんの選んだスピリッツはかなり均等にばらけており、応募者の個性をみるのに非常に役立っています。皆さんの素敵なエピソードを楽しみながら拝読していますよ。

応募者とのマッチングを図る上で、MISI FRONTIER SPIRITSがダイレクトに影響しているのですね。

野村:
面接でもエントリーシートに書かれたSPIRITSの話をすることで、学生の話が広がりやすくなったと感じています。当社の面接では学生からの「逆質問」を受け付ける時間を必ず設けているのですが、そこで学生から面接官の「推しスピリッツ」の質問を受けることもあります。面接は学生が企業を見極める場でもあるわけですが、社員の人柄や社風を伝える上でもMISI FRONTIER SPIRITSは欠かせないものになったと感じています。

ダイバーシティ推進に伴い、女性比率も向上

貴社では採用チームがダイバーシティ推進チームを兼ねた組織編成をとられています。改めてダイバーシティへの理念をお聞かせいただけますか?

野村:
現代は将来の予測が非常に困難な時代になりました。鉄という資源はむろんこれからも欠かせないものですが、従来通りのビジネスでは事業発展は望めません。そこで必要となるのが、社員の多様性です。性別や国籍にとらわれず多様な人材が活躍することで、今までにない発想が生まれ未来を切り拓くことになるでしょう。

松田:
MISIでは、ダイバーシティ推進として、女性活躍推進はもちろんのこと、パラアスリートを含む障がい者の採用や、MISIの世界の拠点で活躍するナショナルスタッフの活用等も行っています。私が担当している女性活躍推進に関連することをお話しすると、例えば、子供を連れて海外駐在する際に、そのサポートとして配偶者もしくは自分の両親を帯同できる制度があります。私は、自分が就活しているときにこの話を聞きましたが、MISIを選ぶ一つの決め手になりました。現在では、女性総合職社員の海外駐在に、旦那さんもしくは母親がお子さんとついていくというケースもあり、海外赴任中の育児をサポートする制度として活用されています。もちろん男性の育児に対する支援も行っており、最近では男性の育休取得率もかなり高まってきました。

ダイバーシティ推進は採用にどのような影響を与えているのでしょうか。

松田:
新卒採用では、男女比や国籍による採用人数の目標は設定せず、純粋に人物を重視した選考を行っています。にもかかわらず、近年は当社の女性活躍推進の取り組みが伝わっているためか、特に女性の採用が自然に増えており、直近の採用では45%程度を女性が占めています。この調子で自然と社内の女性比率が高まっていけば、女性活躍推進を更に加速できると考えております。

最後に、今後の採用戦略に向けたビジョンや、実現してみたい施策についてお話いただけますか。

松田:
MISIの社風とも重なるような、自由で斬新な企画をもっと打ち出したいと考えています。例えばSNSやYouTubeなどを活用した採用活動はすぐにでも取り入れたいと考えていますし、将来的にはバーチャル空間でのセミナー開催なども構想しているところです。MISIの採用にとって最大の強みである社員の魅力を、これまで以上に多彩なチャネルから発信していきたいですね。

野村:
採用広報において改めてしっかり伝えたいのは、「鉄」を取り扱う醍醐味と意義です。鉄という金属は、人類の進化の歴史を築く礎となっている素材です。紀元前1400年ごろに鉄鋼を使うようになって以来、人類の農業・狩猟における生産性は飛躍的に高まり、食料が確保できるようになったことから、人口の爆発的な増加をもたらしました。鉄は人類の進化に不可欠だったと言えると思います。そして産業革命につながり、今なお鉄は産業の中心にあり、その可能性は無限に広がっています。また、日本という国にとっても、鉄の持つ意味は大きいといえます。技術力がある反面資源の乏しい日本が、敗戦後の焼け野原から復興を成し遂げるために、「資源を輸入して製品をつくり、輸出して外貨を稼ぐ」貿易立国という戦略をとったわけです。まず鉄から始まり、自動車産業、電機産業が隆盛し、日本の奇跡的な経済成長に繋がったのです。主役はメーカーですが、これを陰で支えたのが丸紅や伊藤忠商事も含めた商社です。そして今はMISIが鉄のフロントランナーとして日本の産業や経済を支えています。MISI FRONTIER SPIRITSに魅力を感じて入社してくれる皆さんにも、ぜひ「鉄を取り扱う仕事」の誇りや面白さを感じながら活躍してほしいと願っています。

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