大学卒業後、住友商事株式会社に入社。通信機器の営業、携帯電話を活用した新規事業立ち上げに携る。2003年、シェイク入社。営業責任者、人材育成事業の立上げ拡大に従事。2009年9月に代表取締役社長に就任。「全ての人の目が輝く世の中をつくる」ことをミッションとし、リーダーシップ開発を中心に新入社員からマネジャーの人材育成に取り組む。著書『「新・ぶら下がり社員」症候群』(東洋経済新報社)。
吉田 実Minoru Yoshida
株式会社シェイク
代表取締役社長
大学卒業後、住友商事株式会社に入社。通信機器の営業、携帯電話を活用した新規事業立ち上げに携る。2003年、シェイク入社。営業責任者、人材育成事業の立上げ拡大に従事。2009年9月に代表取締役社長に就任。「全ての人の目が輝く世の中をつくる」ことをミッションとし、リーダーシップ開発を中心に新入社員からマネジャーの人材育成に取り組む。著書『「新・ぶら下がり社員」症候群』(東洋経済新報社)。
近年、学生や新卒者の価値観や考え方が変化し、就職活動の動向にも影響を与えていると言われています。世代間ギャップに加え、新卒採用の売り手市場、さらに新型コロナウイルスの流行といった社会背景が学生の志向を大きく変化させている中、採用活動の見直しを迫られている採用担当者も少なくないでしょう。そこで今回、この課題について語ってくださったのは、株式会社シェイクの吉田代表。同社は「リーダーシップ開発」を軸とした企業向け研修プログラムの設計・実施を行っており、学生や新入社員の動向に関する調査・分析も手がけています。豊富な人材開発経験に裏打ちされた「Z世代論」、そして彼らの成長を促す最適なコミュニケーション手法は、きっと次世代の採用活動に向けた有益なヒントになるに違いありません。
まずは貴社の事業内容について、改めて簡単にご紹介いただけますか?
株式会社シェイクは、新入社員研修を含めた各階層向けの研修プログラムの設計・実施を行っています。すべての研修は「リーダーシップ開発」を軸としており、これが当社の特徴と言えます。一般的にはリーダーシップというと管理職向けの概念であるように捉えられがちですが、私たちはリーダーシップを若手社員のうちから培う必要があると考えています。私たちの考えるリーダーシップとは、自分が主体者であるという意識を持って行動し、周囲への影響力を高め、組織・社会に貢献していく力のこと。新入社員研修においても、自分の人生を自分でリードする意識と、周りを巻き込んで仕事を進める力を重視しており、全員がリーダーシップを発揮できる組織づくり、つまり「シェアド・リーダーシップ」の実現を目指しています。
本日のインタビューでは、豊富な人材開発経験に基づき、近年の学生の動向や、彼らと接する採用担当者へのアドバイスについてお聞きしたいと思います。近年の若者、いわゆるZ世代と呼ばれる学生や新卒者は、それまでの世代と比べて変化していると言われていますが、吉田様はどのようにお考えでしょうか。
シェイクでは多くの学生や新入社員と接する機会があり、アンケートによる調査・分析も行っていますが、確かにここ数年の学生・新入社員にある程度共通する特徴があると思います。大別すると、(1)関係性の重視(2)成長意欲の高さ(3)自信のなさ(4)承認欲求の高さ という4点に集約されると思います。
4つの傾向について、詳しくお聞かせいただけますか。
第一の「関係性の重視」については、データでも明らかになっています。シェイクで行ったアンケート結果を見ると、「長く働き続ける上で大事にしていることは何か」という質問に対して78%もの人が「職場での人間関係」を挙げています。仕事内容や待遇以上に、上司・同僚との関係性を重視しているわけです。SNSの影響もあるのでしょう、人と違うことをして生じる軋轢を極端に恐れる人も多い。素直で協調的な人が多い反面、周囲より目立たないことや関係性を優先するあまり、自分の個性やしたいことを表現できない人も増えている気がします。
ネット世代らしい特性と言えそうです。二つ目の「成長意欲の高さ」とはどのようなものでしょうか。
働く目的に「成長」を挙げる若手社員は多く、研修をしていても熱心にフィードバックを求める方が増えました。しかし、「早く成長しなければ」と焦るあまり、「何のために成長するのか、成長してどうなりたいのか」まで落とし込めていない人も多く見受けられます。成長すること自体が目的化してしまうと、ともすればコスパよく成長したいという発想につながり、地道な経験を避けがちになったり、「今の環境では成長できないのではないか」と必要以上に不安になったりします。
成長意欲はポジティブな特性ですが、具体的なイメージが掴めなければ活かしきれないということですね。
三つ目の傾向は「自信がない」ことです。難関大学に入り、超一流企業に就職が決まっているような学生でも、驚くほど自信がなく、やりたいことがわからないという人が多い。自信がないと自分を人と比較するようになり、自分の能力を人に証明することを優先する“証明モード”に入ってしまう。失敗は、短期的に見れば自分の能力を証明できない事象なので、証明モードのときの彼らは失敗を恐れ、経験することに踏み出せません。しかし本来、仕事とは失敗を含めたさまざまな経験を積み、学びながら成長するもの。時代背景もあるかもしれませんが、そうした経験が積めていないこと、そしてそこからの持論化ができていないことも、自信のなさにつながっていると思います。彼らには、失敗を避け、自分の優秀さを示そうとする“証明モード”ではなく、積極的に経験を積む“成長モード”への転換が必要です。
能力も意欲もあるのに、自信がないゆえに発揮できないのは、個人にとっても企業にとっても大きな損失であるように思えます。
四つ目の傾向は、「承認欲求の高さ」です。これは他の傾向ともつながる話ですが、周囲との関係性を重視し、証明マインドが強い人たちは、自ら立てた成長目標を達成することよりも、周りの人からの承認を求めるようになります。この考え方が著しく強いと、自律的にキャリアを構築することは難しく、成長も限定的になってしまう可能性があります。
関係性を重視する傾向や成長意欲の高さなどのポジティブな特性がある一方、自信のなさや承認欲求の高さが自律的な成長を阻んでいる側面もある、ということですね。そうした傾向を持つ学生が企業に対して求める要素は、どのように変化していると思われますか?
昔と比べて、上司や同僚との関係性を重視する傾向が強くなりました。実際、離職の理由として仕事内容や待遇ではなく、「上司との関係」を挙げる若手社員も増えていますね。また、会社選びにあたっては「自分が成長できる会社かどうか」を大切にする学生が増えています。そのため、企業が採用活動をするにあたっては、「業績」や「商品力」のみを押し出してアピールするというやり方では、響かない学生も多いかもしれません。
それでは、企業が採用活動をするにあたっては、どのようにして学生に自社の魅力を伝え、コミュニケーションをとるべきでしょうか。
最も重要なことは、「学生の成長に貢献する意識」だと思います。採用を単なる合否判断の場ではなく、学生の成長を支援する場としても捉えるのです。面接はともすると学生が披露する華やかな経験を評価する場になりがちですが、ささやかな経験であってもしっかり聞き取り、そこから何を学んだのかをきちんと掘り下げる。それが成長支援そのものとなり、企業と学生の関係構築にもつながると言えます。
採用広報や魅力付けのフェーズにおいてはいかがでしょうか。
「入社後にその会社でどのような成長ができるのか」を丁寧に伝えることも、成長意欲の高い学生には効果的です。「この企業で自分が成長できるかどうか?」という点を重視している学生でも、「具体的にどのように成長をしたいのか」「望む成長が本当にこの会社でできるのか」にまで掘り下げて考えられていないケースも多く、企業側も明確に言語化し、伝えてあげられなければ、入社後のミスマッチにつながってしまいます。
Z世代の価値観に寄り添った施策です。
その通りなのですが、「Z世代」と一括りにしすぎないことも大事だと思います。時代背景や環境によって価値観が形成されることは事実ですが、一人ひとりの個性をしっかり認めて、多様性を受け入れることが、人的資本の時代には必要です。学生の欠点や課題に注目するのではなく、個性や強みを見出し、それをどう活かすかを考える。そうしたタレントマネジメントや人材開発の視点を、採用活動にも取り入れるのが良いでしょう。例えば、面接で学生が話したエピソードにポジティブなフィードバックを行い、たとえ小さくても“成功体験”を与え、その経験の中から学んだことや育んだ強みに気づいてもらう、といったことです。シェイクで行っている研修でも、失敗を恐れず自律的に行動することを促し、小さな成功体験を通じて自信を持ってもらうことを重視しているのですが、見違えるような成長をみせる受講者が本当にたくさんいます。
小さなエピソードにポジティブなフィードバックを与えるという面接手法は、コロナ禍によるわかりやすい「ガクチカ」が生まれにくくなったいま、採用ご担当者にとってひとつのヒントになりそうです。とはいえ企業側からは、やはりZ世代とのジェネレーションギャップを感じたり、コミュニケーションの難しさを感じるケースも多いと聞きます。
コミュニケーションの難しさが生じるのは、世代が離れている以上当然のことです。例えば私の世代の社会人は「24時間働けますか」というキャッチコピーが通用する時代にキャリアをスタートしており、人間関係やワークライフバランスを重んじる今の若者と意見が異なるのは不思議ではありません。しかし、現代の若者は決してコミュニケーション能力が低いわけではなく、さまざまな階層向けに研修をしていると、むしろマネジメント層のほうに人の話を素直に聞けない人が多かったりする。また、コロナ禍の影響で若者のコミュニケーションがオンラインに偏っていると言われることがありますが、その反動でリアルなコミュニケーションを求める人も多く、例えば会社のイベントや飲み会を歓迎する若手社員は意外にも増えている印象を受けます。
では、ジェネレーションギャップを乗り越えて若者と企業がコミュニケーションをとるためには、どのようなことを意識すればよいのでしょうか。
重要なのは、世代と価値観の異なる人同士が互いに歩み寄り、理解しようとすることです。そのためには、企業側・上司側が若者の価値観に理解を示すと同時に、学生・若手社員側も、社会の厳しい側面や仕事上の挫折にすぐ自信をなくしてしまうのではなく、自律的な成長に向けて行動を起こす気概が必要でしょう。企業の採用担当者は、学生が入社後にそうしたリアリティギャップに悩むことがないように、採用広報や面接などの場を通してあらかじめ仕事や社風を過不足なく伝えることが有効だと思います。
最後に、学生と日々向き合っている採用担当者の方々へ、メッセージをお願いします。
就職活動とは、「自分は何者か」「自分がやりたいことは何か」という二つの深い問いに向き合う、おそらく初めてにして最大の機会でしょう。自らの責任で生き方を決める「キャリア自律」の時代において、これらの問いは非常に重要です。採用担当者の役割は、学生と対峙すると同時に、彼らの抱えるこの二つの問いとも向き合うこと。これほど真剣な問題について誰かと正面から話し合う機会は、人生において滅多にありません。つまり採用活動とは「最高の人材育成のタイミング」なのです。学生のこれまでの経験を応援しつつ、彼らの社会人としての「軸」を一緒に作り上げていく。そういう意識で採用に取り組んでいただければと願っています。
Special Feature 01
人材データを蓄積し、その後の採用可能性につなげていく「タレントプール」。
新たな採用手法の実現方法を紐解きます。
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