1995年入社。財務や海外人事関連業務に携わった後、ITソリューションビジネスや環境ビジネスに従事する。その後も新規事業開拓や海外の関係会社への出向などのさまざまな経験を経て、2020年4月より現職に。
田渕 順司Junji Tabuchi
三井物産株式会社
人事総務部 人材開発室
室長
1995年入社。財務や海外人事関連業務に携わった後、ITソリューションビジネスや環境ビジネスに従事する。その後も新規事業開拓や海外の関係会社への出向などのさまざまな経験を経て、2020年4月より現職に。
“人の三井”と言われるほど、人の魅力を重視する社風で知られる三井物産は、世界と日本をつなぐ総合商社としてグローバルに事業をおこなっています。そんな同社の採用チームが2021年卒採用で掲げたスローガンは、「脱・就活ゴール」。内定をもらうこと自体にとらわれず、入社後の自己実現を見据えて成長を続けたい、という意思を持った人材に出会うため、その想いに応える施策や選考をさまざま用意してきたといいます。その本質に迫るべく、今回お話を伺ったのは、人材開発室 室長 田渕 順司様。これまでもチャレンジングかつ学生の本質に迫る取り組みで注目を集めてきた同社が、新型コロナウイルス禍で実践した採用活動を振り返ります。
※本内容は2020年10月8日におこなわれた「HUMANAGE SEMINAR 2022 -VUCA時代、新卒採用の”これから”を考える」の内容を編集したものです。
2021年卒採用において、貴社採用チームが大切にされていたこだわりを教えてください。
「脱・就活ゴール」というスローガンを掲げて採用活動を展開しました。一般的に、就職活動の「ゴール」は内定(内々定)をとること、と考えている学生も多く、それは確かに間違いではありません。しかし、本当のゴールとは就職した企業で活躍し、イメージ通りの自己実現を果たすことであるはず。そのためにも、学生には選考をテクニカルに攻略するのではなく、入社後のことも見据えてありのままの姿を見せてほしい、という想いがありました。一方で我々もそれに相応しい環境を用意したい、と考え、このスローガンを定めました。
そのような方針に基づき、具体的にどのような取り組みを実施されたのでしょうか。
今年の採用戦略の目玉として、エントリーシートの形態を大きく変えました。学生の皆さんに2000字で「自分史」を書いていただく、というものです。各自の体験を幼少期から振り返り、自分がどんなことを考え、何に感動し、何に熱中したのかを時系列で書いていただきました。
ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)だけにフォーカスしたり、目立つイベントで頑張ったことだけをキレイに整えてアピールしてもらったりするのではなく、自分がどのような人間なのか、そのありのままの姿を見せてほしい、という意図がありました。自分史の作成を通じて自らと向き合い、分析してもらうのがねらいですが、あくまで率直に書いていただきたかったので、自分史だけでは合否を決めないこともあわせて伝えました。
他社ではあまり例をみないエントリーシートですね。手応えはいかがでしたか?
ねらい通り、学生の個性が非常によく滲み出ていたと感じました。文体も十人十色でしたし、幼少期からのエピソードを通して人物像も伝わってきました。「自分史さえ見れば、面接しなくてもある程度学生のことがわかる」と錯覚を起こしたほどです。しかし実際に面接をしてみると、まったく自分史の印象通りの学生がいる一方、そうではない学生もいました。自分史がよく書けている割に、質問をしてみると意外に話が広がらない方もいる。逆に、文章は物足りないけれど、話しているうちに「書かれていなかった魅力的なエピソード」がどんどん出てきて、思わず惹きつけられる方もいました。やはり文章の良さはひとつの要素に過ぎず、自分史を使って丁寧に話を掘り下げ、学生の「素の姿」に迫っていくことが大事だと再認識しましたね。
2000字の自分史を自由に書くのはかなり大変そうな印象も受けますが、学生からの反応はどのようなものだったのでしょうか。
多くの学生は、就職活動に向けて自己分析や自己PRをまとめていくプロセスの一環として、自分史を書いていたようです。なかには「三井物産のために作った自分史を元に他社のエントリーシートを書きました」という方もいらっしゃいましたね。
2021年卒採用は、新型コロナウイルスの流行と時期が重なりました。面接はオンライン化されたのですか?
当初は3回の面接をすべて対面でおこなう予定でしたが、書類選考中に新型コロナウイルスが流行しました。議論を重ねた結果、一次、二次面接はオンラインでおこない、最終面接は対面でおこなうという決断を下しました。もちろん面接官はマスクを着用し、アクリルパネルを間に挟むなど、万全の感染対策をおこなった上です。学生の方には、本人の希望を確認し、マスクを外していただいた方もいらっしゃいました。せっかく対面でお会いしているので、出来れば表情やを話す姿を見たいという気持ちはありましたね。
貴社は“人の三井”と言われるほど、人材の魅力を重視する社風で知られています。それが対面へのこだわりに表れているのでしょうか。
当社は総合商社ですので自社の商品がなく、“人”がすべての会社です。対人関係を通じて世の中に新しい価値を作っていくビジネスだからこそ、人材採用において妥協は許されません。もちろん、オンラインでもある程度の見極めはできます。しかし、一度も会ったことがない学生のことが本当にわかるのか、内定を出せるのか、最後まで議論は続きました。とはいえ、学生にリスクを負わせて対面の面接をおこなうことはできません。学生の想いも充分に考慮した上で、緊急事態宣言が解除されたら対面で面接をする、そうでなければオンラインでおこなうという結論に達しました。
結果的に、オンラインと対面、両方の面接をご経験されたわけですが、どのような違いを感じられましたか?
オンライン面接は、学生も我々も徐々に慣れてきたという印象です。学生の皆さんはご自宅にいるということもあって、かなりリラックスして面接に臨まれているな、と感じました。これに対して対面の面接では、突然慣れない会議室でアクリルパネルを挟み、自分の親ほど年の離れた面接官と対峙することになる。対面の面接が初めてという学生も多く、相当緊張を強いられる環境だったと思います。我々としてもアイスブレイクの時間を長めにとり、緊張をほぐす努力が必要でした。しかし、やはり直接会わなければ見えないものはあるとあらためて実感しました。
面接ではどのような質問をされたのでしょうか。
特に決まった質問は用意していません。むしろ自分の中で「こういう回答が返ってきたらOK/NG」というようなバイアスを作らないように気をつけ、提出いただいた自分史をベースに幅広い質問をし、学生のありのままの姿を見ることを心がけました。それこそが自分史を書いていただいた目的でもあります。
面接以外で、オンラインを活用した施策にはどのようなものがあったのでしょうか。
オンラインセミナーについては、かなり工夫を凝らしたつもりです。特に学生から評判が良かったのは、「MBK Weekly Channel」というオンライン番組ですね。これは毎回異なるテーマを設け、社員が座談会形式でライブ配信をおこなうというもので、毎週木曜日の夕方に1時間半、全5回開催しました。出演者は日本のみならず、世界中で活躍している社員たち。仕事内容や海外駐在員ならではのライフスタイルなど、彼らのざっくばらんなトークを届けることで、実態の見えにくい総合商社の働き方を学生にわかりやすく伝えるねらいです。
入社後のイメージを明確にする「脱・就活ゴール」につながる企画といえそうですね。
おっしゃる通りです。学生からも「会社の雰囲気がよく伝わってきた」と好評でした。このように国境を越えたライブ配信を気軽にできるのは、オンラインの優れたところだと思います。
インターンシップもオンライン化されたと伺いました。
はい。当社のインターンシップはグループディスカッションをメインにおこなっています。実際に存在する部門を想定したグループに分かれて、総合商社における新規ビジネスを擬似的に企画するという内容ですが、オンラインで実施するのは初めてなので、当初は不安もありました。
実際にオンラインで実施してみていかがでしたか?
学生の柔軟性は想像以上に高く、オンラインでも問題なくグループディスカッションをおこなうことができました。最初はオンライン特有の「間」の取り方などに戸惑う参加者も見られましたが、すぐに慣れてオンライン環境を使いこなしていた印象です。社員からのアドバイスも適宜与えることで、商社の仕事の一端に触れていただけたのではないかと思います。学生からも「参加して非常に良かった」という感想を多数いただきました。
2021年卒採用を踏まえ、来期の採用活動の展望についてお聞かせください。
今年はやむを得ずオンラインを活用した採用活動をおこなったわけですが、結果としては、さまざまな試行錯誤を経て発見できたこともたくさんあります。オンラインのメリットを知ると同時に、やはり実際に会ってみないとわからないことがあるという事実も再認識できました。来期はこの経験を活かし、オンラインとリアル、それぞれの良いところをハイブリッド的に取り入れた採用企画を立案することが重要になるでしょうね。
“人の三井”らしい採用活動を今後も模索していく、ということですね。最後に、貴社の採用活動について田渕様の想いをお聞かせください。
三井物産に入社することは、一言で言えば「自分探し」のようなものだと考えています。学生の皆さんは、いわばまだ何かの卵の状態。総合商社である当社には非常に幅広い事業フィールドがありますが、多くの学生は将来携わりたい業界や商品を具体的に決めきれてはいません。しかし、「自分の世界を広げたい、成長したい」という想いは非常に強い。だからこそ、彼らが就職した先の未来を明確にイメージできる環境を用意し、コミュニケーションをとっていくことが不可欠です。その挑戦のスタート地点となる新卒採用がどのようにあるべきか、今後も進化を続けていければと思います。
Special Feature 01
人材データを蓄積し、その後の採用可能性につなげていく「タレントプール」。
新たな採用手法の実現方法を紐解きます。
コンテンツがありません