採用、教育、組織構築などの人的側面から企業経営を支援する人事コンサルティングファーム・株式会社セイルの人事コンサルタントとして、さまざまな規模・業界の経営を支援。インターンシップ設計は15年間で200案件以上を担当する。
Published on 2021/05/20
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藤原 誠Makoto Fujiwara
株式会社セイル
代表取締役
採用、教育、組織構築などの人的側面から企業経営を支援する人事コンサルティングファーム・株式会社セイルの人事コンサルタントとして、さまざまな規模・業界の経営を支援。インターンシップ設計は15年間で200案件以上を担当する。
2022採用が着実に進む中、各社では2023向けインターンシップに向けた取り組みも始まっています。さらなる早期化とオンラインでの実施が広がったことで、インターンシップの企画も変化しているようです。学生の体験価値を高め、自社らしいインターンシップを行うには、どのような視点が重要なのでしょうか。人事コンサルタントとして企業のインターンシップのプランニングも行う、株式会社セイル 藤原誠氏に企画のポイントを伺いました。
各社のインターンシップを企画・設計する中で、オンライン化によりどのようなニーズが増えたと感じていますか。
一番多かったのは、既存のプログラムを活用し、効果的にオンラインに移行したい、というご相談でした。しかし検討を進めていく中で、やはり手法論だけでなく、「会えない時代だからこそ、何を伝えていくべきか」を改めて考えたいという声も多く、一からプログラムを構築するなど、結果的に大幅に内容を変更したケースも少なくありませんでした。
例えばどのような事例がありましたか?
ある物流企業では、荷物の出荷から顧客への配送までの流れをVRで制作しました。実際に会って魅力を伝える機会が少ない分、コロナ前は動画で見せていた内容を、より臨場感をもって伝えようという試みでした。また、ネットワーク基盤に強みを持つIT企業では時流に合わせ自社の存在意義を認識させようとしました。コロナ感染拡大直後から速やかにゼロトラストの概念を用いてテレワーク環境を普及させていった同社の挑戦を、オンライン上のケーススタディで追体験させる仕立てとしました。
オンラインになったことで、実施日数などにも変化はあったのでしょうか。
従来から、就職活動のキックオフ的な意味合いの強い夏季インターンシップは5日間程度、選考直前となる冬季インターンシップは1日間で構成することが多かったのですが、それはオンラインになってもあまり変わっていません。当初はオンラインで5日は長すぎるのでは、と日数を短縮しましたが、実際にやってみると学生は長期のものを希望していることも多く、実施後の満足度も高い傾向がみられました。インターンシップというのは本来「就業体験」ですが、オンラインだとどうしても「体験」の感覚が少ない分、しっかり日数を設ける必要があるようです。一方で、一日あたりの時間は短くし、休憩時間をしっかりとる、宿題は出さない、など学生がオンオフの切り替えをしやすいような工夫を施すことをおすすめしています。
オンラインインターンシップを組み立てるにあたって、特に重要なポイントは何でしょうか。
基本的にはやはりオフラインと変わらず、「インターンシップを通じて何を訴求したいのか」という視点だと思います。その上でさまざまなツール等を使いこなせば、従来の対面ではできなかったことが実現できるようにもなりました。
自社の訴求ポイントをどう絞り込み、どのように伝えるのが効果的だとお考えですか?
例えば「企業理念」は、自社が社会の中でどのように在りたいのか、何のために事業を行っているのか、といった訴求すべきポイントを端的に表しています。
しかし従来は、冒頭にさらりと紹介される程度にとどまり、学生もそれが仕事内容とどのようにリンクしているのか、腹落ちできていないケースがよくありました。そうではなく、プログラム全体を通じて理念を伝えるストーリーが重要と言えます。王道なのは、最初に企業理念を示し、「なぜなら」にあたる社会的背景や問題を提起し、「例えば」の事例を社員自ら実際の業務に沿って語り、最後に学生にそれを「体験」してもらう、といった流れです。学生が彼らなりに解釈するためのステップを用意するイメージですね。
一方で、ビジネスモデルやお金の流れに特化した内容は、敬遠する企業もあるようです。
確かに堅い話や、生々しいお金の話はしづらいかもしれません。ただ、むしろその「実は」のディテールを言語化・視覚化することこそ、インターンシップの価値のひとつです。ビジネスモデルと言うと難しく聞こえるかもしれませんが、それこそがその企業が現在まで生き抜いてきた「勝ち筋」であり、学生に伝えるべき強みであると言えます。具体的な仕事の中身を伝えると同時に、そこに通ずるお金の流れなどの話も積極的にしていくべきです。そのためには、日頃から自社のビジネスの本質やリアルな現場を語れるようになると良いでしょう。
等身大の自社らしさを効果的に伝えることが、参加者の満足度を高めていくのですね。
はい。そのため、現場社員の方の動員をきちんと図る企業のインターンシップは満足度が高いですね。全体のプログラムが終了したあと、社員が数名ずつ入ったグループに分かれ、今日の感想やもっと話したいこと、聞きたいことを引き出す場を設けるケースは、特に好評です。
企業規模や業種、ビジネスモデルによって、最適な「伝え方」も異なるのでしょうか。
その通りです。先ほどの「企業理念こそ訴求ポイント」、「ビジネスモデルが『勝ち筋』」という話の通り、伝えるべきことは変わらないのですが、伝え方やインプット量は企業によって変えるべきでしょう。例えば、学生に馴染みの薄い工作機械を扱う商社のプログラムでは、いきなり商社の仕事を体験させてもその存在意義までは伝わりにくいため、事前に「商社と工場はどのような関係にあるのか」「良い工場の条件とは何か」といった周辺情報を伝えるなど、理解を深めさせる手順は変わります。
また、大企業や特定の業種では、多くの人が持つイメージと実情が違うというケースがよくあります。物流業であれば「体力が必要な仕事」、SEであれば「ずっとPCに向かっている仕事」などがその例です。それに対して実情は、物流業の総合職であれば仕組み構築やノウハウ蓄積が仕事の本質であったり、SEはPCより顧客と向き合って対話したりシステム構成を検討していることのほうが多いケースもあります。そういった、世間一般のイメージとは異なる部分についてストーリー性を持って伝えると、学生にとって有意義なインターンシップになると思います。
その一方で、一部のインターンシップでは、他社との差別化が難しくなってきている実態もあるかと思います。そこで、当社では一連の業務をプロジェクトマネジメントの視点で捉え、学生に体験してもらう仕組みづくりを行っています。当社のような外部パートナーが存在する意義は、企業側が有する膨大な情報やコンテンツと学生が持っている前提知識や処理能力を天秤にかけ、プログラムを決められた時間内でちょうど良い難易度に構成し、高い満足度が得られる形に作り上げることだと考えています。
夏季インターンシップ~冬季インターンシップ~選考を一連の流れとして捉えたとき、効果的な実施方法とはどのようなものだとお考えですか。
夏季は全体像を理解してもらうこと、冬季はそのうちの一つの事例を深掘りしていくことに焦点を当て、自社の理解を促していくプロセスが有効です。たとえば、夏季は自社がSDGsのためにできることは何かを事業の視点から考え、冬季はそれを仕事に落とし込み、実際の取り組みを体験する、といった流れです。徐々にフォーカスを狭め、段階的に自社らしさを伝えていけると良いかと思います。
少し余談になりますが、インターンシップと内定者研修では当然プログラムの設計方法は変わります。インターンシップはこれから会社を好きになってもらう段階ですが、内定後は会社に対する理解を深める段階と設定してみると、内定者期間は基礎知識があることを前提に、自分がこの会社で何ができるか?といった視座の高い内容に焦点を当てるべきだと言えます。入社までの一貫したプログラムの中で、インターンシップや内定者研修を位置づけていけると良いでしょう。
最後に、採用ご担当者様に向けてメッセージをお願いします。
今はオンライン環境下で企業・学生の双方に「ぬるま湯の中にいる不安感」のようなものを感じます。実施側も参加側もハードルが下がり、ある意味楽にはなったけれど、本当の就業体験ができたのだろうか?という漠然としたモヤモヤがある。だからこそ、多少難易度は高くともリアリティあるプログラムを実施した企業のインターンシップは好評ですし、より質の高い学生を採用できていると感じます。重要なのは企業の魅力を突き詰めて残る“らしさ”であり、これを考え続け、学生が持つ力を信じてあげられる人事は強いです。インターンシップですべてを伝える必要はありません。選考、内定、入社という全体スパンでストーリー性を持った関係性を築いていただければと思います。
Special Feature 01
人材データを蓄積し、その後の採用可能性につなげていく「タレントプール」。
新たな採用手法の実現方法を紐解きます。
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